過去篇
死神生活のはじまり
ふと外を見てみると、空は薄明るかった。
朝が来たのだろう。
私は赤火砲で作った炎を消し、ゆっくりと立ち上がった。
そして大きく深呼吸をし、頬をパンパンと叩いた。
式典は今日。
風来坊は処分されずに済んだのだろうか…なぎさんは…という思いが頭の中をぐるぐると回っている。
(なぎさんは、どこへ行ったの?何をしようとしてるの?…あの日、私に何を伝えたかったの…?)
夜から考えているこの疑問…考えたところで、誰も答えを知らない…。
知っているのは、なぎさんだけ…。
「お気分が、すぐれないのですか?」
「わッ!」
突然声をかけられ、心臓をバクバクさせながら後ろを振り向いた。
「う、卯ノ花隊長…」
卯ノ花は鍵を取り出して入り口の鍵を開き、中へ入ってきた。
「もう、式典が始まるのですか…?」
まだ太陽ものぼりきっていないのに、と心の中で思いながら、卯ノ花に尋ねる。
「いえ。しかし、その前に準備などがありますので。それと…」
卯ノ花は一本の斬魄刀を取り出し、私に差し出してきた。
薄暗くてよく見えないが、目を凝らしてみると、それが風来坊だということが解った。
「間に合ったんですね…!ありがとうございます!!」
私は風来坊を受け取って、頭を深々と下げた。
「あと、私達がつけておいた霊圧を制御している機械を外しますね」
卯ノ花は私の首に付けてあった首輪のような物に触れ、パキンと音をさせて破壊した。
破片は粉々に砕け、パラパラと床に落ちた。
霊圧が上がっていくのが解った。
なぎさんがかけた術はとけていないので、前の半分ぐらいに感じる。
「式典の時では、霊圧は抑えていて下さいね。いるのは隊長格の者ばかりですが、外には平隊員達もいますので」
「は、はい…」
私は慌てて霊圧を抑えようと神経を集中させる。
が、うまくいかない。
『ったく、世話が焼けるなぁ…』
私が困っていると、頭の中に風来坊の声が響き、私の霊圧を下げてくれた。
「それでは、行きましょう」
私は心の中で風来坊に礼を言い、前を歩く卯ノ花を慌てて追い掛けた。
*
「確か、あなたは瞬歩が使えるのでしたね」
「あ、えと…はい」
いきなり聞かれたので、返答に時間がかかってしまったが、卯ノ花は気にしない様子で、私の方を首だけ動かして見た。
「では、私の後を付いてきて下さい。少しでも時間が惜しいので…」
「は、はい…!」
私が返事をしたとたん、卯ノ花は瞬歩で消えたので、私も慌てて瞬歩で後を追う。
(すごい…)
さすがは隊長、と言うべきか、卯ノ花の瞬歩はとても速かった。
私も必死になって追い掛ける。
はぐれては卯ノ花に迷惑をかける、と思ったのだ。
突然、卯ノ花は大きな建物の庭の中で足を止めた。
私も慌てて止まったが、背中にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさいッ…!」
「いえ、大丈夫です。それより…」
卯ノ花は建物に目を向けて言った。
「ここは四番隊舎です。中にあなたの服を用意してあります。入りましょう」
卯ノ花の後に続いて、私も四番隊舎に入る。
早朝だからか、中には誰もいなかった。
キョロキョロと見回していると、卯ノ花が奥からいつも死神が着ている黒い服と、隊長格が着ている白い羽織を持って来た。
「この黒い服は死覇装(しはくしょう)といいます。今すぐ着替えてください」
「は、はい…!」
私は卯ノ花に手伝ってもらいながら、10分ぐらい時間をかけて死覇装を着た。
丈の長さはちょうど良かったが、袖は私には少し長く、手を出すので精一杯だった。
そして私は、羽織を手に取った。
背中には、大きく"零"と書かれている。
「あの、本当に私…隊長になってもいいんですか…?その…試験みたいなのも受けていないし…」
卯ノ花は少し驚いた顔をしてから、またすぐに微笑んだ。
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