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鬼ごっこ(82)


「…おっそいのぅ…」



若干のイライラと、寂しさが交互する。公園の入口近くにあるガードレールに寄り掛かり、携帯を開く。
いつもならこういう時は連絡が来るのに。そもそも、柳生が待ち合わせに遅れる事なんて、滅多にない事だ。

秋分の日、学校も、珍しく部活もが休みだった今日は、柳生とテニスをする事を約束していた。
常勝立海。俺らにとっちゃ真田じゃあないが、常にテニスをし、休みの日だからって鍛練を怠らないのが普通なのだ。それに普段はしょっちゅうテニスばかりしているせいか、逆にテニスをして身体を動かさないと気持ちが落ち着かない。
赤也みたいで複雑だが、俺も相当なテニス馬鹿だ。



「仁王くんっ」



横から掛けられる声。足音や気配で柳生かと思ったが、どうやら違ったらしい。声が女子だったからだ。
またか、と内心溜息を吐いてけだるく横を向けば女子3人組。



「…なんじゃ?」

「あ、あのっ、仁王くんはこれからテニスの練習?」

「あー…」



なんでわかったのか、と一瞬思い、ああこれのせいかと肩に背負ったテニスラケット等が入った、でかいリュックをチラリと見て肩の力を抜いた。



「あのっよかったら、れ、練習っ、見に行っちゃ駄目…かな…?」



3人してきらきらと目を輝かせ、俺の様子を伺っている。
だが、



「すまんな。今日は集中して練習したいんじゃ。だから、また、な?」



態と優しい表情をして語り掛ければ、ボッと顔を赤くする3人。後はいや、だとかごめんね、だとかいう言葉を半分聞き流しながらニコニコしていればようやく去った女子軍。
遊びに出掛けてもしょっちゅうこういった事があるため、自然と断り方は身についた。そもそも、彼女らに練習を見せたりする気はさらさらなかったけど。



「っ仁王君!」



ああ、今度は違う。柳生の声だ。嬉しい反面イライラがまた湧いてくる。
緩む頬をきゅっと引き締め、声のした方を見れば息を荒げた柳生がいた。柳生が息を荒げるだなんて、これまた珍しく、俺は言おうとしていた文句も忘れ、ただ驚いた。



「柳生?どうし、」

「すみません仁王君…!」



誰よりも紳士な柳生は、俺を待たせて遅刻した事を酷く悔やんでいるようだった。



「…何かあったんか?」

「…実は、母が倒れまして…」

「や、柳生のおかんが…!?大丈夫なんか!?」



柳生の母親は、柳生に似ていてとても気配り上手な人だ。俺も柳生ん家に泊まりに行ったりと、何度もお世話になっている。
その人、柳生の母が倒れたのだ。驚くのも無理はないと思う。



「はい、病院に行った所、寝不足や疲れが原因だったらしくて…。ああ、今は落ち着いていますし、父が一緒にいますので、大丈夫です」



くい、と眼鏡を上げ、俺を落ち着かせるように喋る柳生は、俺をもう一度見てすみませんと謝った。



「いいって。おかんが倒れたんじゃし、仕方ないじゃろ」

「ですが…」



中々いつものようにならない柳生に、どうしたものかと方をすくませた。
柳生は人一倍紳士な分、失敗や人に迷惑を掛けた時酷く落ち込む癖があるのだ。
今までパートナーをやってきただけ、その対処法だって俺は知っている。



「やーあぎゅ、鬼ごっこしよう」

「はい…?」

「柳生が鬼な。」



すたすたと公園に入り、ベンチにリュックを置いた俺は、振り返り、未だぽかんとする柳生にニヤリと笑い掛けた。



「俺を捕まえられなかったら、おまんと別れちゃる」



ダッ、と公園の奥の方向に走れば、柳生も本気だとわかったのか、急いでリュックをベンチに置き、俺を追いかけて来た。

だが、そう簡単に捕まってはやるものか。
ジャングルジムに登り、ブランコの間を駆ける。滑り台を登って降りて。



「仁王君っ!!」



切羽詰まったような柳生の声に苦笑する。仕方ない、そろそろ捕まってやろうか。

目の前に合った、ドーム型のいろんな場所に入口のある遊具。それの下の方にある穴に向けてスライディング。ずさささっという音と共に、次の音。



「つ、かまえましたよ!」



腕に触れる手は確かに柳生のもの。ああ、捕まった。
急にぐいっと後ろから引っ張られ、柳生に後ろから抱え込まれるように抱きしめられる。
柳生の息遣いと、自分の心音。
薄暗い遊具の中で、俺は頬を緩め口を開いた。



「…柳生」

「まったく…貴方には敵いませんね、仁王君」

「ん、苦しいぜよ」



ぎゅっと強まる腕の力に苦笑した。
肩に顔を埋められ、柳生の息が掛かりくすぐったい。


「柳生、な、やーあぎゅ」

「…はい」

「…練習、そろそろ行くぜよ」

「……っはぁ、わかりました。出ましょう。」



最後に、とまたぎゅうっと抱きしめられ、すっと離れていく体温に少し寂しさを感じた。
遊具から先に出た柳生に手を引かれ、眩しい太陽に目を細めた。



120320












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あきゅろす。
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