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ぶちょう(幸村と赤也)

太陽がさんさんと照り、入道雲が空を渡り歩く。
なんて天気のいい日なのだろう。どうしようもない程暑いのは夏だから、と言えば割り切れる気がした。

だがこの天気とは裏腹に体調は絶不調な事この上ない。
だるい。あつい。だるい。
いっそこのまま冷たい廊下にぱたりと倒れ込んだら楽なのかもしれない。冷たくて静かで楽、なんて、素敵。
だがその誘惑に身を委ねる事を俺のプライドとやらが許さない。面倒だなとため息を吐いたがこれが俺だ。幸村精市、頑張れ。



「ぶちょーう!」



遠くから声が聴こえた気がして辺りを見回した。長い廊下の先に、見覚えのある黒。
それがたったった、と近づいて来て、最後に目の前に着くともう一度部長!と言ってへへっと笑った。その一つ一つの仕種が彼らしくて。ああ今、部長、そうだ、うん、そっか。



「ん?どーしたんすかぼーっとして?もう練習始まりますよ」
「ああ、うん、っふふ」
「え?」
「ふふふ、はは、あははっ」
「え、ちょ、部長…?」



暑さにやられたんすか、なんて失礼な言葉が聞こえた気がしたけど、そんなのどうでも良かった。
そうだ、俺は、部長。皆の部長だ、立海テニス部の、部長。



「赤也ぁ」
「は、はい?」
「なにびくついてるんだい?ふふ、おかしい」
「いや、今の部長に言われたくな゛っいいたたたたたたた!?」



赤也のこめかみを両拳でぐりぐりぐり。案の定痛いみたいで、まぁ当たり前なんだけど。
この感覚が酷く懐かしい。
俺はこんなとこで倒れるわけにいかない。なんたって俺は皆の部長なんだから。生意気な後輩と頼れる同級生。
皆に支えられて、俺、幸せじゃないか。



「いってぇ…」
「赤也」
「…はい…?」
「俺、やれるかな、部長」



しーんとした廊下に響く、俺の声。沈黙と視線が少し痛いが、こんなの気にしない、気にしない。



「なぁに言ってんすか」



赤也の明るい声のするに方を向けば、にっ、と赤也が笑っていた。
俺は何度この笑顔に救われて来たんだろう。もちろん赤也はその事を知るわけはないけれど、いつか忘れた頃にあの時はね、なんて話してみるのもいいかもしれない。



「俺達の部長は、幸村先輩にしか勤まらないっすよ!」



赤也の馬鹿。そんな素直な答え言われたら、舞い上がっちゃうじゃないか。調子に乗って体調悪くしたら、赤也に看病させてやろう。


「部長?」
「っ赤也!」
「はいっ!?」
「ここから部室まで、競争だ!」
「はあ!?」
「負けたらガリガリ君おごりね!」



最後の言葉を告げる頃にはもう俺は廊下を走り出していた。赤也も負けたらガリガリ君おごり、という言葉にハッとしたのか全速力で走って追い掛けて来る。

だってさ、赤也、こんな顔お前にも、皆にも見せられないだろう。走って暑くなったって、そしたらごまかせるじゃないか。

赤也、赤也、こんな部長でごめん、ありがと。俺、頑張るよ。


110821

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あきゅろす。
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