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名前が消えた本(光謙)




放課後の図書室

いつものように自分以外誰もいないここは、とても静かだった

聞こえるのは本のページをめくる音と、開けた窓から入る風の音だけ。




静かだ
改めてそう思い、ページをめくろうとした。



バタン!



それと同時に図書室の扉が大きく音を立てて開く

金髪の彼が目に映った
走って来たのか、頬が若干赤い気がした



「先輩、うるさいっすわ」



「ああすまんすまん」




はにかみながらカウンターの中に入り、隣に座る

一応、図書委員しか入ってはいけないのだが。



(誰もおらんし、ええか)



一人頭の中で解決させたそれはすぐに頭の中から消えた。




「お、この本の山は?」



「ああ、それ全部処分するんです」



「なんかもったいないなぁ」


「なんなら何冊か持ち帰ります?」




そう尋ねると先輩は苦笑いして首を横に振った


だって、山になっているその本達はほこりを被っていたり表紙が色褪せていたりと、かなり古い本達なのだ。

随分前、俺や先輩が入学するよりずっと前からあるらしい


最初の内はいろんな人の手に触れられていただろうこの本達は、いつしか新しい本が来る度に、本棚の奥の奥へと追いやられていたのだろう。





「そういえば先輩部活は?」


「ああー…今日はサボるわ」


「…部長に怒られても知りませんからね」




ふぅ、と先程まで読んでいた本に栞を挟んで閉じた




「じゃあ暇なら手伝って下さい」



「なにを?」



「それ、運ぶの」




指差したのはさっきの本の山
改めて見ると結構な量だ


一人で全て運ぶには、かなり時間がかかると見た




「え」



「部活サボる程暇なんやったら手伝ってくれますよね?」



「いや、俺は、」





財前に会いに来たんやけど

と俯いて小さな声で呟く彼が、とても愛しく思えた



でも聞こえないフリ。
だってそれとこれとは別だから




「手伝わずに部活に行くか、手伝って俺と一緒に居るか、どっちにします?」



「!、やる、手伝う!」




(…単純)


さっきまでの嫌な顔とは打って変わって張り切ってる彼を見て、ついくすりと笑ってしまった




「?どしたん?」



「いや、なんでもないっすわ」




重たい本を抱えて、図書室を出る




「…この本、」



「はい?」



「次はもっとたくさん読まれる本になれたらええな」


「なんすか、それ」



「いや、なんとなく」




本当に、面白い先輩だ
そう頭で考えながら抱えた本をするりと撫でた。


















名前が消えた本

(それはたくさんの人に読まれたという証)

















11、4、6

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あきゅろす。
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