夢から覚めて 世界の定義を知っていますか? きゃあ、きゃあと喚く彼女たちに人徳がないことなど最初からわかっていた。 それは彼女たちの世界がいびつに歪んでいたから。 調査兵団の団長と兵士長がエレン・イェーガーへの面会を、駐屯兵団に希望した。 駐屯兵団が今だバタバタしていたが、それを断る理由はなかったため、それは受け入れられ、私がその場に立会となった。 というのも先輩たちはいつもどおり逃げていて、それが決まったのが直前だったからである。 そしていま、目の前にいる人たちのすがたにとても不思議な感覚を抱きながらその場にいた。 エルヴィン団長はとても大きく、立っているだけで存在感があり、少し怖いと思った。 そして、人類最強はたしか160cmだったはずなのに自分よりも大きくて小さいという印象はなかった。 ただ、その人が持つ雰囲気というのだろうか、それが今まで感じたことのないもので、怖いな、と思いつつも、その矛先が自分に向けられることがないという認識からか、どこかガラスのむこうを見ているかのような感覚がしていた。 「ああ、そこの、君。済まないんだがエレンと二人きりで話がしたいんだが、いいかな?」 唐突にかけられた声にはっとして敬礼をしてから頷く。 そのような要請があった場合には応じるようにと命令がなされていたので、困ることはなかった。 * * * いらいらしているな、と感じた。 隣に立っている兵士長はかの有名な人類最強で。 その雰囲気が怖いと思いながらも、立場上彼をもてなす側の私が何かできるわけでもなく。 どうしてそんなにイライラしているのか、と考えて思い至る。 確か巨人化できる旅人二人を獲得したのが調査兵団だったと。 そして、調査兵団入団者はひとりもいなかったのだということも。 そりゃそうだ。 ただでさえ覚悟がいるそこに、巨人の恐怖を知った訓練兵が志願したいなんてまず思わない。 ましてや、自分たちの命をあんな、旅人たちのために使うなんてゴメンだろう。 そりゃはいらないわ。 「調査兵団に入ったのがエレン・イェーガーだったら、って思ってるんですね。」 あ、やば。 最近言葉がこぼれ落ちる回数が増えている。 としなのか。 思いっきり顔を歪めるリヴァイ兵士長に思わず苦笑が漏れる。 「お疲れでしょう?目の下の隈、ひどいですよ。」 「言われなくてもわかってる。」 「大変でしょう。彼女たちはとても、自分中心で。 まぁ、エレン・イェーガーだったとしても違う意味で苦労はしそうですけれど。 少なくとも彼だったら、一般の調査兵団の入隊者はいたでしょうし。」 「どう言う意味だ。」 「人望、ですかね。それが彼女たちにはなかっただけでしょう。まぁ、それ意外にもエレン・イェーガーが行くところならどこでもついて行くという幼馴染、とかいますし。」 「お前は、」 「はい、なんでしょう?」 困惑したかのような雰囲気の兵士長を見上げる。 「お前は、入ったのか?」 何にと聞かなくてもわかった。 だから、答えることにした。 「世界、という言葉は何を指すと思いますか?」 いきなり突拍子もない質問をした私に眉をひそめる彼に答えを聞かずに続ける。 「世界とはこの世の全てという定義だと、口にする人がほとんどでしょう。けれど、とある女の子が言ったそうです。世界とは私の周りにいる人たちだと。自分が関わってきた人たちだと。 動物は基本自分の縄張りを守るそうです。 人間にとってのそれが女の子の言った世界だと私は思っています。 だから、ミカサ・アッカーマンやアルミン・アルレルトのようなエレン・イェーガーを世界とする人たちは調査兵団に入ったでしょう。ほかにも、彼に、彼の言葉に影響された人達も。 けれど、私の世界はとても狭く、私の世界には彼らは入っていない。 私は、私にとっては、誰がどこに入ろうと関係ないんです。 自分が守れるならそれでいい。 私の世界は私だけでできている。 だから、私は私が私である限り調査兵団にははいりません。 お期待に添えずすみません。」 そう言って笑った私の言葉に意味がわからない、と言う表情の彼の目を私は消して忘れないだろう。 #3 相容れない価値観 (それは生きた時代が違ったから、分かり合えない境界線。] [*前へ] [戻る] |