弱ペダ小説
今荒☆林檎様リクエスト
俺のお使えする2つ上のご主人様は、少し変わっている。引きこもりで、外には出たがらない。
荒「暇…」
ご主人様にはご両親が居られない。広すぎる豪邸には、俺を合わせても数える程の世話役しか居ない。
今「暇なら、庭へ出てみてはいかがですか?」
荒「外には出たくねェんだよ」
今「さようでございますか…」
どうしたものか。このまま一生部屋の中というのも身体に悪いが、無理強いはしたくない。
荒「あ、俺のことは荒北でいいっつってんだろ」
今「…ですが、お使えする身であるので」
荒「うっせェ!俺のことは荒北でいい。俺はお前のこと、今泉って呼んでんだからヨ」
本当にご主……荒北さんは変わった人だ。だが、まずは何故こうなってしまったのかを説明しないと、読者様には意味がわからないだろう。
荒北さんは、高校で自転車競技部に所属していたと聞いている。都内でも強豪校の箱根学園でエースアシストをしていたらしい。大学へ進学してからも続けていたが、突然、不慮の事故で走ることすらままならない状態になってしまった。
それからというもの、誰一人として自転車に関する話題も持ちかけず、荒北さん自身、引きこもりへとなってしまい、大学もやめた。
元々、ご両親は病弱な方々だったため、荒北さんが幼い頃に亡くなられた。
荒「っ!…おい、玄関先にだけなら、出てやってもいいぜ」
今「か、かしこまりました!」
急にどうしたのだろう。だが、珍しく焦っている荒北さんに、何かあったのだろうと察した。
玄関先に着くと、ゆっくりだが、確実に前へ前へと歩いて行く。杖も使わず、ご自分で歩いて、玄関の重たい扉を開けた。
ニャァ…
荒「ほら、こっちこい」
少し開いた扉の隙間から、白い毛並みの子猫が見えた。だが、どこか様子が変だ。親猫が見当たらないどころか、首から血を流しているのがはっきりとわかる。
荒「ったく…、どいつにやられたんだよ…」
ミャァ…
細く鳴く子猫を抱き抱え、荒北さんは医療室へと向かった。俺もタオルや消毒液諸々を持って、後を追いかけた。
荒「今泉、お湯でタオルを濡らして傷口拭いてやれ」
今「はい…」
ミャ…ゥ
荒「……」
無言のまま、拭った患部へガーゼをあて、包帯で巻き付ける。
荒「……ぅし!ほら、もういいぞ」
ミャァ…
治療した子猫を玄関先から放してやり、ちゃんと屋敷の外へ出たのを確認してからご自分の部屋へ戻った。
また、引きこもり生活が始まるのだろうか。
荒「おい」
今「はい」
荒「明日は、庭に出てみたい…」
今「…はい!かしこまりました!」
俺の予想は外れた。いや、予想以上だった。きっと、今日の子猫との出会いが、荒北さんを変えてくれたのだろうと思った。
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