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Short Novel
赤い手袋
電車の中で、ふっと笑いが込み上げてきた。

タケシが昨日、変な顔をしたから。
思い出し笑いだ。

周りに変な目で見られないように、口を手で隠す。

電車の中は退屈だ。
ウォークマンを忘れたからかもしれない。

街の景色を、いつもより、よく見る。
私は、窓から見える雲を見ながら思う。

タケシと出会った時のことや、大喧嘩した時のこと。

タケシは、いつでも私の味方だ。
些細なことから大きなことまで私を守り、支えてくれた。


彼が愛おしい。

彼の大きな目も、ちょっと厚めの唇も。

彼のお腹にある、ホクロが愛おしい。


だけど、中々素直に、どんなに愛してるかが言えない。
いつも減らず口を叩いてしまう。


そうだ。
今日帰ったら彼を抱きしめて、素直に言おう。



なのに、そんなときに限って、また減らず口を叩いてしまう。
私の悪いクセだ。


彼は今までにないくらいに怒って家を出てしまった。



もう帰ってこないような…そんな気がした。







「タケシ!」

私はタケシを追い掛けた。

タケシは驚いた顔をしていた。

ユキが追い掛けてくるなんて初めてだな。って目を丸くしていた。


私は白い息を吐きながら、彼に抱きつき、言った。


「これからは私が守るよ」


―あの日。
結局、追い掛けることができずに、タケシが折れて謝ってきた。
その時、タケシの手には袋が握られていた。

ごめん。といいながら渡す、その袋の中身は赤い手袋だった。


タケシは私が朝、寒い。と言っていたのを聞いて買ってきてくれたのだ。

どこまでも優しいタケシに私は胸が熱くなった。



そして、決めた。
一緒になったら、ずっと私がタケシを守るんだって。




タケシの腰に回した私の薬指にはリングが光っていた。




「これ」

タケシは自分の手袋を私にはめた。


私が守ると決めたのに、やっぱりまだ、私はタケシに守られている。

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