01


 相田リコは大きく口を開けたまま掲示板の前に佇んでいた。理由は簡単。3日程前の実力テストの結果が貼り出されたからである。「何やってんだ?」声をかけてきた日向の声すら届いていないらしい。「お。カントクまた2位か。すげえ」「オレ順位上がってたー!」次いで伊月や小金井達もやって来たのだが、無視。「どうした?」土田の声に漸く彼女は口を動かした。

「この1位の子って…」

「あーオレらのクラスの奴じゃん。リコも知ってるだろ。アイツ頭めちゃくちゃ良いらしい」

「いや、知ってるけど。違うとこに問題があるのよ」

「は?何が?」

「…私がずっと2位なのはいいのよ。そうじゃなくて。1位は今までずっと田中くんだったでしょ。悔しいけど、彼とは僅差で負けてたの」

「へーカントクやっぱ頭良いんだな!」

「コガ黙ろうか」

「だけど今回の総合点、見てよ」

 リコの言葉に彼らは掲示板を見やる。彼らの視線の先には今回のテストの総合点が。「なっ!?」日向が声を上げた。それに頷くようにリコが「そうよ」と。

「30点も離されるなんて…!」

「「「?!」」」

 驚きを隠せない小金井、伊月、土田、水戸部に対し「そういえば」と日向が口を開く。「アイツ都立○○から来たらしい」隣りの席だから話した、と。「何それ詳しく!!」リコが勢い良く日向に振り向く。つられたように小金井達も。若干引きながらも日向は話し始めた。足は、教室へ向かう。

「授業中とか先生の話し聞いてないようで聞いてるし、オレが解らない歴史の問題スラスラ解くし」

「日向くんですら解けない歴史を解くとは…やるわね」

「あと小テスト。アイツいつも満点」

「え!?たかが小テストでしょう?」

「はっ!小テストでしょ「はい伊月黙ってー」

「…ただし数学以外な」

「へぇ…」

 にやりと効果音がつきそうなまでに笑ったリコの視線の先には、彼女達の話題の中心となっている人物。イヤホンをつけ読書に勤しむ人物をリコはじっと見つめる。するとその人物は何かを察したように顔を上げ、あたりを見回した。数度きょろきょろとしたその人物は首を傾げ、もう一度手元の本に視線を戻した。

「みょうじさん、これ」

 みょうじ、とリコの視界の隅から現れた男子に呼ばれたその人物は栞を本に挟むとイヤホンを取る。『またですか、田中くん』眼鏡に細身。リコの目をもってせずとも草食系なその男子は、学年1位だった田中。
 なんだなんだ、と教室の入口付近から覗き込む巨体の集団に周りの生徒は距離を置く。

「何度考えても解らなくて」

『田中くんがこの人物になりきればいいんだよ』

「なりきる…?」

『ん。もしも兵として駆り出され、帰る場所はあるのに家族はいない。守るべき故郷はあるのに愛するひとは、いない。そんな環境にあるなら…さあ、田中くん、君の心境は─?』

「─!そうか、ありがとう、みょうじさん」

 嬉しそうに教室を出る田中。その姿を見たあと、穏やかに笑って読書を再開したなまえを見た彼ら。「みょうじさんて教えるの上手いんだな」伊月が感心したように言う。小金井達は首をせわしく縦に振った。ふらり、リコが足を踏み出す。
 日向は見逃さなかった。彼女の口角が思い切り上がっていたことを。




 新学期早々、図書室で勉強していた田中くんと彼の解いていた問題の間違いを見つけ、教えてあげたらそれ以降懐かれてしまった。簡単に言うと解らない箇所があればわたしに聞きに来るようになったのだ。さっきもそう。田中くんは頭良い筈なのだが、まあ、あれだ。わたしが張り切って勉強したら学年1位というものを取ってしまったのが原因だろう。…ほんっと、やらかした。

 イヤホンを耳に突っ込み、今後話しかけられても解らぬように音量を上げて携帯のアラームをバイブに設定し、ポケットに突っ込む。そして窓側を見て顔を伏せれば完璧。おやすみな「みょうじさん」なんか幻聴が。まあい「みょうじなまえさん。さっさと起きなさい」あれ?急激に温度が下がった気がする。渋々顔を上げれば目の前にいたのはショートカットの似合う可愛い女子。

「こんにちは、みょうじさん」

『おやすみなさい』

「寝かすか!」

 そう言われあっという間にイヤホンを奪われて肩をがっちり固定された。なんなんだ一体。『可愛い相田さんがわたしに何の用が…』可愛いという言葉に反応したらしい彼女が若干手を緩めてくれた。可愛いと言ったのは間違いじゃないよ。
 ちらりと視線を彼女から離せば近くにいた日向くんと目が合う。「(わ、悪いな)」『(ほんとうにね)』目で会話してみた。伝わるかどうかは不明だけど。

「ごほん…あなた○○から来たって本当?」

『ん』

「じゃあ頭良いのは確かね」
「ねえ、みょうじさん」

『ん?』

「バスケに興味あ『ないです』

「返事はやっ!」

 にこにこ笑う彼女に油断していたがバスケ部の勧誘とは。もちろん即答した。日向くんのツッコミも早い、流石だ。「まだ何も言ってないわよ!?」『いや、直感で?』「オレを見るな、オレを!」ぎちぎちと肩を掴む相田さんの握力が上がっているのは気のせいだと思いたい。

『わたし野球部に「野球部!マネージャー足りてたわよね?」

「はいっ!」

 え、ちょ。野球部の人、相田さんの迫力に負けたの?うそー。「野球部にマネジは足りてるみたいね」笑顔なのに顔が、顔が!怖いです!!とは言えずガクブル状態で彼女を見る。ん…待て待て、もしかしてわたしの野球部マネジの枠は潰れた…?高校生活の楽しみが!

「リコ、みょうじが!手を離してやれ!手を!」

「あ、あら。ごめん」

『野球部…マネジ…』

「ちょ、みょうじさん!?持ち直して!」

 小金井くんの声が遠い。野球部マネジしたかった…というか野球したかっ「みょうじさん!」伊月くんありがとう。でもネタ帳に何か書き込むのは止めて。

「ま、まあ、あれね!とにかくバスケ部の練習にでも来なさいよ!」

 拝啓、わたし。そちらで野球はできていますか?わたしは…どうやら厄介な人物に目を付けられたみたいです。



とてもリコ的な考えだね!
(わ、悪い)(ん。まあ、見学くらいなら。日向くんもツッコミお疲れ様)(あー、うん)


‥‥‥
玲ちゃんを巻き込まれ不運にしたい。

(120911常陸)


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