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 何故この委員をせにゃならんのだ。

「あんた転入してきたんだから仕方ないでしょ」

『やだ陽さんわたしの心読むなんてー!そんなにわたしのこと見てたのね!』

「うざっ」

 陽の冷たい視線を諸に受けながら廊下を歩く。わたしの手にはプリントとメモ。メモには《神谷はすぐ石田先生のところに行くこと!》と杉田先生からの伝言が走り書きしてある。手ぶらの陽がいる理由は言わずもがな道案内だ。

『わたし図書委員がよかった』

「仕方ないでしょ。それに図書委員は影野くんだし」

『一緒でいいじゃんか!なんで保健委員なの?わたし不運違う』

「不運は委員長に限るわ。第一、あんた委員長じゃない。平よ、ひら」

『知ってるわい!』

 保健委員とかもっと優しくて奉仕精神のある人じゃないといけないよ。わたしなんてそんな大層な人間じゃないし。それよりもあんなにクラスメートいるのに今まで誰も保健委員じゃなかった方が不思議だわ。誰か怪我したらどうすんの。特に諏訪くんとか。あの子ほんと無邪気だから保健室御用達っぽい。「ついたよ」ガラッ、と扉を開けた陽。

「石田先生ー」

「んー?」

『ぎゃっ!』

 ギィ、と椅子を鳴らして振り返ったのは見たことのある顔。思わず声を上げてしまった。「どうしたの?」『なんでもない!』心配してくれた陽には悪いけどこればかりは言えない。

「うちのクラスの新しい保健委員連れてきました」

「ありがとう」

「じゃ、知世。あたしは部活行くから」

 そう残して、陽は消えた。ギィ、もう一度椅子が鳴る。わたしは先生を見つめた。

『……なんでいるの──九十九』

「ハハッ!ハジメマシテ。ボクは石田九十九です。宜しくね、神谷サン」

 にこりと笑う白衣を着た九十九に鳥肌が立った。どの面下げてそんな台詞言ってんだこの人。あ、ちがう、神様。『はいプリント…で、石田センセーがわたしを呼んだ理由は?保健委員だから?』チッチッチ、と人差し指を振る九十九に苛ついたのは秘密だ。

「キミの考えなんてお見通しだからね」

『…いやん』

「で、本題。見ての通りボクはセンセーだからね。言いたいことはわかるだろう?」

『わかってますよー石田センセー』

 九十九って呼んではいけない、敬語使えということくらい理解できます。そこまで馬鹿じゃない。しかし、ケタケタ笑う九十九は少々人の気を煽るが我慢だ。くるっと椅子を回して「此処でボクは2年の保健医なんだよ」と笑う。

『学年毎に違うの?』

「各学年の棟に一人ずついるよ。あとサッカー部専門の医師もね。ボクの担当はキミら2年という訳だよ」

『へぇ。金持ち学校は規模も違いますってか。サッカー部どんだけ優遇されてんの。彼らは野球部並みの苦労をすべきだわー。だからってベッドが10もあると病院みたいですね』

「ドヤ顔してあげようか?」

『却下』

 立ち疲れたので九十九の向かいの椅子に腰を下ろす。どうやらこの椅子もくるくる回るやつらしく、調子に乗ってくるくるしていたら九十九に止められた。「保健委員は1クラスにつき一人だからキミを含め10人だね」へぇ、と適当に相槌を打つ。「誰が委員か教えようか?」いやいい、と返した。名前聞いたところで覚えられない。いや、可愛い子なら別だよ?可愛い子は即刻インプットされるよ?だって可愛いイコール正義でしょうよ!

「はいはい。わかったから」

『…人の頭覗くのよくない』

「覗いてはいないさ。最後の方口に出ていたよ。まあそういうことだから。此からは学校で会うことが多くなるだろうね。あとボクがいない時はキミに任せるから」

『は?嫌だよ。なんでそんな面倒な「ね?」はい。喜んでやらせて頂きますとも!!』

 わたしの周りにはどうしてこう最恐な人ばかりなんだ。あ、神様もいるけど。そういえば九十九は男性として教師してんのかな。「そうだよ」そうなんだ。男性の保健医…なんかエロいですね石田センセー。

「…それだけだから。今日はもういいよ。帰りなさい」

『はーい。じゃあねー』

 椅子から立ち上がり、手を振りながら週に一度は訪れなければならないだろう保健室を後にした。



「はぁ…起きているなら早く部活に行きなさい」

 なんだ、気づいてたのか。流石だな。カーテンを開けてベッドから下りれば困ったように俺を見ている。

「石田せんせこそ逢い引き?だめだろ、生徒と恋愛なんてよぉ」

「はぁ…やっぱり聞いていたんだね」

 頭を抱えながら机に伏せた先生。面白いネタだ。「従姉妹なんだよ」と顔を上げた。は?そんな嘘通用しねーよ。上履きを引きずりながら先生のところへ行く。机にあるカップ2つのうちひとつは先生の愛用品。もうひとつはさっきの生徒が飲まずに残していったものらしい。手のついていない方を奪い、苦いコーヒーを流し込んだ。

「ほら、証拠。昔の写真だけどな」

「……なんだ。つっまんね」

「つまらなくて結構。キミは保健室をサボり場所と勘違いしていないかい?成績が宜しいようだから先生達も何も言わないようだけどね、毎度説明するボクの身にもなってくれないかな。ボクとて忙しい身なんだよ?」

「あーもう。石田センセーは鬼道クンか源田かよ」

「鬼道君達に迷惑をかけているのを理解しているのなら早々に動いてくれると助かるんだけど」

 石田先生の性格はたぶん、俺以上に意地が悪い。笑顔のまま俺にグチグチと説教じみた話をする。これなら怒鳴る鬼道クンの方がまだ扱いやすい。言い返そうとするがその上を行く返答を返される。しかし、文句を言えないのはこうしてサボり場所を提供してもらっているからだ。

「チッ…わかったよ。部活行きゃあいんだろ」

「最初からそうしていればいいんだよ。あ、さっきの子は」

「知ってる。うちのクラスの転入生だろ。ま、向こうは俺を知らねえみたいだけどな」

「へえ、知っていたんだね」

 ケタケタ、と先生が笑う。感に障るその笑顔を見ていたらさっさと行け、と促された。仕方なく残りのコーヒーを飲み干し、出口に向かう。

「あんまり知世を苛めないであげてね、不動君?」

「ハッ!さぁな」




ループ&ループ
(なんか面白そうじゃねぇの)((ゾワッ)ひっ!な、なんだいまの悪寒。こわっ)


‥‥‥
実は明王は知世ちゃんと同じクラス。サボり魔だし髪伸びてるから彼女は気づかない!

(120504常陸)
(120510加筆修正:常陸)


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