6:興味


 図書館は好きだ。他人との干渉を気にせず自分の時間を過ごせる。今日は天気も良いし、気分も良い。借りたら外で読書をしよう。ヒーロー関連の雑誌コーナーで立ち止まる。

(うわ…ワイルドタイガー特集のやつばっかり残ってる)

 それを見た千尋は何となく切なくなり、仕方ない読むか、と手に取った。ふと目に入った本が棚の最上段にあった。気になるが如何せん本棚が高すぎる。周りを見渡すが踏み台が無かった。とりあえず手を伸ばしたがやはり届かない。千尋はジャンプしようと、ヒーロー雑誌を床に置いて小さな声で『よし!』と言った。



 久しぶりに時間のとれたバーナビーはウロボロス関連の記事を探しに図書館へ来ていた。相変わらず何の情報も手に入らず苛々しながら本棚の隙間を歩く。
 ふと、視界の隅で飛び跳ねるものが見えた。何事か、とそちらを見ると、黒髪の女性が最上段の本を取ろうとジャンプしていた。

(あれ、あの人はどこかで)

 見覚えのある後ろ姿。仕方ない。バーナビーは必死に本を取ろうとしている女性の背後から本を抜き取った。

「これですか?」

『−−!! ぅ、え?あ、ああ!はい、そうです!ありがとうございます』

 いえ、お気になさらずに、とバーナビーは営業用の笑顔を振りまいた。ぐ、と千尋が息を呑んだのに気づかない。『あ!』と千尋が声をあげた。

『もしかして、バーナビー・ブルックスJr.さん?』

「ええ、まあ」

『嘘、ごめんなさい!ブルックスさんにこんなことさせてしまって!』

「いいですよ。困っている市民を助けるのがヒーローですから」

 爽やかに微笑むバーナビーに千尋はたじろいだ。この笑顔苦手だ。慌てて足下の雑誌を拾い上げ『本当に助かりました!それじゃ』と逃げるように走り去った。

(…どこかで見たような、)

 彼女が手にしていたヒーロー雑誌が目に入った。ワイルドタイガー…?珍しいな。最近はおじさんのファンをよく見る。バーナビーは千尋とは反対に歩き出した。が、ピタリと止まった。

(この前売店でおじさんのカードを買った人だ)

 くるりと身体の向きを変え、バーナビーは千尋の後を追った。



(最っ悪だ!)

 ついていない。せっかくの気分も台無しだ。鏑木・T・虎徹の後はバーナビー・ブルックスJr.かよ。本当に運が無い。千尋は運ばれてきた紅茶を勢い良く飲み込んだ。

『っ熱!』

「そんなに勢い良く飲んでは火傷するのも当たり前です」

『−っブルックスさん!?』

 どうぞ、と赤いハンカチを手渡される。丁寧に断り、ナプキンで口を拭った。

『…どうしてここに?』

「いえ、貴女に興味がありまして」

 バーナビーはさも当然というように目の前に腰を下ろし、ちらり、と視線を千尋の手元の雑誌に移した。くすり、と笑ってみる。疑問符を浮かべる彼女に笑みを向けた。

「ワイルドタイガーのファンなんですね」

『…は?』

「先日も売店でタイガーのカードとポスターを貰っていましたよね」
「僕、見てたんです」

 珍しくて、とバーナビーは笑った。その笑顔が作り物では無い本当に珍しいという笑顔で千尋は驚いた。

『あ…え、と…と、友達の影響で』

「へえ‥!お友達もタイガーのファンなんですか」

『あ、まあ‥』

 嘘では無い。寧ろ友達はヒーロー自体大好きだったから。

「失礼ですが、お名前を伺っても?」

『…石田千尋、あー名前が千尋です』

「千尋さんですね、覚えました」

 バーナビーは再び爽やかに笑った。名前、覚えられた。対称的に千尋の笑顔は凍りついていた。

「‥ここでは少し目立つので、公園でお茶でも?」

 爽やかすぎる笑顔。断れない。『あ、はい。…ぜひ』日本人独特の曖昧な笑顔と返事で千尋は仕方なくバーナビーの後を追った。





興味、揺れるおさげに釣られる
((目の前の僕じゃなくておじさんのファンとはいい度胸です))((ああ帰りたい…))

‥‥‥
ばにちゃんは自分に興味を持たない千尋ちゃんに興味を持ちました。
さあ次はばにちゃんとの会話だ!

(110929 常陸)

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