19:懐古



(注!主人公視点。過去と現在あっちこっち。感情もあっちこっち)

 アルカンシエルも十分板についてきた。市民も受け入れてくれたし、HERO TVに姿を映されるのにも慣れた。アルカンシエルとして姿を晒すのは問題ない。わたしが千尋とバレなければいいのだ。
 ヒーロー達にもシエルと呼ばれて親しくされるようになった。トレーニングルームはあまり使用しないが、それなりに顔は出している。やたら素顔を見せろと言われるが全て無視だ。わたしは平凡に生きたい。

「よっ!シエル」

 ワイルドタイガー、鏑木・T・虎徹。彼はやたらと絡んでくる。相棒のバーナビーはわたし、アルカンシエルを毛嫌いしている。まあわたしでも、ヒーロー達にすら素顔を見せない仲間なんて嫌だ。

『…やあ、タイガー』

 会って挨拶をするなり頭を撫でる。別に嫌じゃなかった。むしろ懐かしくて、温かくて、嬉しい。優しく頭を撫でられる行為は彼を思い出す。ふつふつと思い出が甦る。

 高校生のわたしなりに真剣に恋をしていた。親友の風変わりな彼女も応援してくれるほど、精一杯の恋だった。
 わたしが恋をしたのは数学の先生。特別、数学ができないわたしを付きっきりで指導してくれた。先生は30代だったか。よく二人で放課後を過ごした。程なく恋人になったし、初めてのキスもした。彼も先生だったから身体は重ねなかった。それでも幸せだったのだ。優しくて風変わりな人だった。近寄る生徒もおらず話し相手はわたしと親友だけ。先生は素敵な人。いずれ結婚したいと思っていた。
 変わったのはあの日。わたしと先生の関係が誰かの手でバラされた。全ての終わりだった。先生は「守ってあげられなくて、ごめんね」それだけ言い残して教師を辞めた。わたしも転校せざるを得なかった。両親は理解してくれたし、親友も親友のままだった。
 だけど、あの日からわたしは恋をしていない。恋をすることが怖いんだ。

「…シエル?」

『−−っ!! な、何だ?』

「いやあ…ぼーっとしてんなあと思ってさ」

『‥…すまない、今日はもう帰るよ』

 虎徹さんが心配してくれたのは有り難い。だが早く家に帰りたかった。



 公園でひとり、ぼーっと空を見ていた。今のわたしは千尋でヒーローじゃない。
 ふわり、風が頬を撫でた。先生は、元気だろうか。きっともう家庭を持てているはず。幸せなのだろうか。少しだけ、あちらが懐かしい。家族も親友もみんな懐かしい。会いたいなあ。

「あれ?あー!千尋ちゃん!」

『…あー‥どうも、鏑木さん』

「ちょっとおじさん!僕、待っていてくださいって言いましたよね!‥あれ?千尋、さん?」

 おう‥うっぷす。なんてタイミング。本当にわたしはつくづく運が無い。どうしてバディと遭遇するかな。『…こんばんは』思わず苦笑してしまう。

「え?バニー、千尋ちゃんと知り合い?」

「貴方こそ千尋さんと知り合いなんですか?」

 目を見合わせ、二人でにらめっこしているみたい。今にも言い争いそうな雰囲気だ。慌てて口を開く。

『あー‥お二人は、仕事仲間だったんですね』

「あーうん、そうなんだよ!な、バニー」

「僕はバニーじゃありません、バーナビーです。不本意ですがそうですね」

「なんだよ不本意って!いいじゃねえか相棒!」

「うるさいですよおじさん」

『あーあー‥仲良しなんですね』

「そうなんだよ〜」

「違います!」

 なんて息の合ったコンビなんだ。これはいいバディになるはずだわ。良かったね、親友。くすり、笑ってしまった。


 


懐古、会いたいひと
(なあ折角だからなんか食いながら話そうぜー俺腹減っちゃって)(貴方という人は!‥まあいいですけど)((あれ?わたし帰るタイミングもなくした?))


‥‥‥
千尋ちゃん視点で書いてみたくて。後は過去の恋愛を少し。やっとバディと絡むよ。

(111017 常陸)

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