14:露見


 昼下がり、千尋はリハビリ室でランニングマシーンを走らせていた。アルカンシエルが密かに活動を始めてから既にひと月が経過していた。その間、イワンとワイルドタイガーを助けた以外にアルカンシエルとして彼らヒーローには接触しなかった。千尋個人としては一週間ほど前にタイガーの見舞いをさせられたが。それからアルカンシエルは多くの人を救った。だがHERO TVに姿を捉えられることは無かった。よく見切れないよなあ…上手く逃げられてるってことかな。小さく息を吐いて千尋はランニングマシーンを降りた。

「おい!千尋!」

『−−!…やほ、ヴァン』
『何急いでんの?』

「いいからちょっと来い!」

 いきなりリハビリ室に現れたヴァンに千尋は腕を掴まれ、理事長室に連れて行かれた。途中、どうしたの?と聞いても「行けばわかる!」の一点張りだった。理事長室に着いた途端にヴァンは千尋を投げるように部屋へ押し込んだ。

「千尋!これを見てごらん」

 ラティオがソファに座りテレビを見ていた。そこに映っていたのは、

『ああああ!アルカンシエル!え!? な、何で!?』

 そこに映っていたのは紛れもない千尋の、アルカンシエルの姿だった。少し汚い映像だがアルカンシエルと十分に判断できる。千尋は動揺しつつも画面に耳を傾けた。

《さあ今回のHERO TVは特別版でお送りします!最近巷を騒がせている影のヒーロー!その名も…"アルカンシエル"!! 助けられた市民も数知れず…しかしその姿は我がHERO TVでも捉えられない!その名のごとく存在を掴めないヒーロー!!まさに神秘!》

 何と恥ずかしい。ナレーションはアルカンシエルの映像に華を添えようと必死だ。千尋は聞いていて全身が粟立つのを感じた。

「まさか一般人に姿を撮影されるなんてね…私にも想像できなかったよ」

『うん…わたしも』
『…あー…どうしよ』

 二人で溜め息を吐く。ヴァンもその様子を見ていた。ナレーションは続き、街頭インタビューではアルカンシエルの素晴らしさを助けられた市民が唄っていた。「あ!理事長、見てください!」ヴァンが声を上げて画面を指差した。

《気になるのはスポンサーの存在…アルカンシエルのジーンズに小さく入るロゴは…彼の大手病院、アスクレピオスクリニックのシンボル!!》

 開いた口が塞がらないとはこれか。ヴァンは思った。途中で気づいた千尋とラティオは焦り始める。

『どうしよう!バレたよ!』

「ああ!これはマズいね!ロゴは小さく入れたつもりだったんだけど…」

「『まさか画像拡大されるなんて!!』」

 わたわたと二人揃って室内を歩き回る。「あの、落ち着いてくださいよ…」ヴァンの声は届いていない。

「いい加減にしなさい!!」

 怒号とともに扉をけたたましい音を立てて入ってきたのはヴィットリアだった。「ふ、婦長っ!!」ヴァンは扉の前から飛び退いた。手を腰に当て、二人の前に立つ。二人を座らせて告げた。

「アルカンシエルは隠すつもりだったけどバレちゃ仕方ないわ!! あれだけ千尋が人命救助するんだもの!腹を括ってHERO TVにでも見切れてきなさい!!」

「え…でもそれじゃあ」

「でも、じゃないわ!下手に病院関係者を探られるよりマシよ。探られたら真っ先に貴女が浮かぶわ、千尋…」

『あ…そっか』

「いい、千尋。女は度胸なの!敵地に乗り込んで言ってきなさい!! "私はポイントも犯人逮捕もしません。するのは人命救助だけです"ってね!最近はヒーローもポイントばかり気にしてるからいい気味だわ!」

『……うん、わかった』

「ええっ!? いいのかい?彼処にはマーベリックもいるんだよ?」

 ラティオはマーベリックを良く思わない。瞳の奥の冷たさを見抜いているから。そんな彼の城とも言えるHERO TVに乗り込むなんて。

『大丈夫。正体はヒーローにも絶対バラさない。マーベリックも気をつける』

「でも、」

「あなた!千尋は腹を括ったのよ!! あなたも腹を括りなさい!!」

「う゛…ああ、わかったよ」

「…乗り込むのか?」

『ヴァン…うん。次にHERO TVが来たら宣言してくる』

「いいのか?」

『うん。二人のためだから』

 そっか、とヴァンは千尋の頭を撫でた。刹那、緊急連絡が入る。ラティオ達と千尋の視線が交わる。どちらともなく頷いた。





露見、さあ行こうか!
(やばい!!自分で言っといてなんだけど緊張してきた!)(大丈夫だろ)(アルカンシエルなら大丈夫よ、ね?)(ヴァン…みんな…行ってきます!)(行ってらっしゃい!)

‥‥‥
最後の小さい台詞は救急隊の面々と。さあこれからどうしようかな。

(111008 常陸)

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