路地裏で息を殺して怪我を治療していた。捻挫というところまで治療したが、千尋は突然治療を止めた。足音が聞こえた。わたしは空気だ。じっと固まる。
「−−!千尋さん!!」
『…ぁ…あーどうも』
名を呼ばれた千尋が顔を上げると、そこにはヒーロースーツを着たバーナビーが立っていた。バーナビーは千尋に目線を合わせてしゃがんだ。カシャン、とメットを上げて顔を見せた。
「こんなところで何してるんですか」
『…ちょっと、』
「危険ですから逃げてください」
『はい…貴方こそ現場に向かってたんじゃ』
「もう終わりました。後は帰るだけです」
「ほら、立って」
『あー…はい』
ならば直ぐにここを離れて欲しい。千尋は乾いた笑みを浮かべた。一向に立ち上がろうとしない千尋。もしかして、とバーナビーが千尋の右足に触れた。『〜っ』刹那、苦悶の表情を浮かべた。
「…怪我してるじゃありませんか」
『……』
「何故怪我を?」
『建物から出るときに捻りました』
疑わしいバーナビーの視線を千尋はさらりと交わした。今ここで彼と一緒に行ってもいいが目立ちたくはない。
『まあ大丈夫なんで−−っな!ちょっと!』
「なんですか?」
バーナビーは千尋を横に抱き上げていた。バタバタと暴れる千尋を無視してバーナビーは近くに停車していた救急車の元へ歩き出した。
『〜っちゃんと病院行きますから!下ろしてください!』
『それにその救急車にはタイガーさんが乗ってますから!!』
「…は?おじさんが?」
ぴたりと足が止まった。そういえば爆発が起きたとおじさんに伝えたとき「もういる!先に救助活動してるぞ!!」と言っていたな。怪我をしたのだろうか。ルナティックの時の事が脳裏を過ぎった。バーナビーの背に冷や汗が伝う。千尋はバーナビーの異変を感じ取った。
『、外傷は無かったみたいですよ。煙を吸い込んだらしいので一応搬送されたみたいです』
「……」
『タイガーなら大丈夫ですよ。だから』
『そんな顔しないでください、バニーちゃん』
「−!! 僕はバーナビーです」
その台詞を言った後千尋を下ろした。バーナビーはすぐに救急車の近くにいる隊員に話しを聞きに向かった。幾分もしないうちにバーナビーは千尋のもとへ戻ってきた。
「彼らが貴女を乗せてくださるそうです」
本来ならば乗らないのだが、救急車はいずれにせよアスクレピオスクリニックへ向かう。ならば乗るか。『ありがとうございました』とバーナビーに告げ千尋は歩き出す。ぱしり、千尋の右腕をバーナビーが掴んでいた。
『あのー‥何か?』
「おじさ‥タイガーのことを見ていてもらえますか?」
『−−‥え?』
「僕は一度会社へ戻らなければならないので。見ていてもらえると助かるんです」
「アスクレピオスクリニックですよね?」
冗談じゃない!!などと言えるはずもなく『わかりました』眉間に寄る皺を必死に抑え愛想笑いを返した。「ありがとうございます」ほっとしたようにバーナビーは笑った。普段からそうやって笑えばいいのに。千尋はそう思った。
『タイガーさんはそんなに柔じゃないんでしょう?貴方が一番知ってるはずです』
「…はい」
『そろそろ行きます…あーその、腕』
「あ!す、すみません」
『いいえ。じゃあ…』
「…タイガーのことお願いします」
『はい』
バーナビーは一度だけ頭を下げると建物の影に消えた。やっぱり悪い予感はあたるな。千尋は自分を待つ隊員のもとに急いだ。
動揺、彼の大事なもの
(千尋、お前!足、捻挫してるだろ!!)(あー、うん)(婦長に怒られるの俺らなんだからな!!)(ごめん、ヴァン)(っち…後でコーヒー入れろよ)(うん)
‥‥‥
ただおじさんが怪我して動揺してるばにちゃんを書きたかっただけ。千尋ちゃんと一緒にいるのは救急隊のヴァンくん(27)です。彼はツンデレ。
(111004 常陸)
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