01



陽(あきら)に会ったのは姉上が消えた次の日の夜だった。唯一の存在を喪った喪失感と先の見えない不安感に襲われ、道端でぶつかった天人と普段では有り得ないほど喧嘩した。
天人に殴られた頬は赤く腫れて、鼻血と口から流れる血液に加えて地面の泥で隊服はぐちゃぐちゃだった。天人は全治何ヶ月か解らないくらいに殴り蹴り飛ばしてやった。行く宛てもなく、体力的にも動けなくなり道端に座りこんだ。途端に睡魔に襲われて瞼を下ろしたときだった。

『あなたはわたしの家に誰も寄せ付けない気ですか』

月明かりが通っていたはずなのに、影がかかったと思えば目の前から聞こえた、女性のアルトの声。視線を遣れば無表情のどこにでもいそうな女がいた。

「ああ悪かったねィ‥だが誰もてめェの家には来やしねェんで安心しなせェ」

苛々していたので悪態を吐く。そうすれば女も消えるだろうと思った。が、あろう事か女は黙って俺の手を引き、家の中に連れ込んだ。

「なんでィ‥積極的な女は嫌いじゃねェが‥」

『、黙って其処に座っててください』

有無を言わせないその声色になんだか色々面倒になり、仕方なくソファに腰掛けた。殴られた頬が痛み出した。畜生、面倒だ。

『傷、見せてください』

女は救急箱を持って現れた。黙って傷を見せれば、何も言わず治療を始めた。慣れない手付きで頬にガーゼを貼り、小さな傷には絆創膏を貼り付けた。

『貴方は抱え込みすぎなんですよ、きっと』

突然、女が話出した。思わず女を見つめる。女は俺の手の傷を治療していて此方を見てはいないので、表情は読み取れない。

『どうしていいか解らないから、こうやって、感情をぶつけるんですよ』

「、何が言いてェんだィ‥アンタは」

『でもそれは良いことです。貴方にはきっと、受け止めてくれる人たちがいるんです。だから、怪我をしても大丈夫。感情をぶつけても良いんです』

何故かわからない。此方を見た女のその表情と言葉に姉上の面影を見た。いつか、土方と喧嘩して怪我をしたあの日。今日のように治療してくれた思い出。
気がつけばぽろりと頬を涙が伝っていた。ガーゼの隙間に入り込み、少ししみた。

「、っ、もっと上手くやりなせェ‥しみるんでねィ」

『‥ごめんなさい、わたし不器用なんで』

その言葉のあと、女は俺の頭を撫でた。刹那、涙腺が崩れた。見ず知らずの女の前で泣いた。声を上げずただ、ひたすらに泣いた。初対面の家の前に倒れていた男が泣き崩れる姿を気持ち悪いと思わないのか。女は黙って俺の頭を撫で続けた。

『−−‥落ち着きました?』

「…ああ‥悪かったねィ‥」

女の家を出る。世話になった、と言い、最後にいちばん聞きたかったことを。

「俺ァ、沖田総悟って言うんでィ‥アンタは?」

驚いて目を見開く女に、くつり、と笑った。女は自分の表情に気づき、すぐに『柊(ひいらぎ)陽(あきら)です、沖田さん』と返した。

「−−じゃあまたな、陽(あきら)」

後ろで『はい、また』と聞こえた気がした。




next

1/2ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!