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あの憎たらしいバイト野郎と会ったのはミツバの葬式が終わって3日後の大雨の日だった。何とも言えない喪失感に、涙が流れることも無く彼女の葬式にも人形のように参加した。総悟ともろくに話しをしていないまま3日が過ぎていた。柄にも無く傘を差さず、橋の欄干から轟々と流れる川を見ていた時だった。

『死にますよ』

番傘を差した着流し姿の女が背後から俺に声をかけた。

「…死なねェよ」

『そうですか』

「……」

あっさりと女は食い下がった。だが女はその場を去ろうとしなかった。いい加減苛ついてきたので、女の顔を見ずに告げた。

「…テメェ、さっさと帰れ」

『そうですね、そうします。風邪ひきたくないし』

そう言った後、女の気配は消えた。俺は黙って煙草をくわえ川へ目をやった。湿気っているため当然火は点かない。急に俺の身体が濡れなくなった。

『忘れてました。これ、差し上げます』

「…−傘なんぞいらねェ」

『あなたにあげるんじゃありません。あなたが風邪をひこうがわたしには無関係です。…ただあなたの家族が心配するでしょう?』

『それに、泣き顔を隠せますから』

泣いていた自覚など無かった。思わず傘を差し出した女を見やる。俺よりも随分と小さい女は背伸びをして傘を差し出していた。女は既に雨に打たれており、長い前髪を自身の顔に貼り付けていた。恐らく俺の顔は見えていない。

「、泣いてねェよ」

『そうですね。でも、あなたの背中は泣いてましたから』

では、と言った女は無理やり俺に番傘を渡して去って行った。
差し出された傘の柄に少しだけ女の体温が残っていて、それは先刻の言葉と共に俺の冷え切った身体にゆっくりと浸透していった。



「……(夢か、)」

『居眠りするならさっさと屯所に帰ってください』

女こと柊(ひいらぎ)陽(あきら)は俺に気づいていなかった。柊(ひいらぎ)と始めて会ったあの日から1週間、偶々訪れた喫茶店で再会した。その時、「テメェは!」と叫んだのだが、柊(ひいらぎ)は気づいていないのか俺を追い出した。事も有ろうかそれが引き金となり、今では顔を合わせれば喧嘩、という状態になってしまった。

「、うるせェよ」

『……』



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