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狂った歯車は止まれない。
*1
瞼の向こうで光を感じた。
意識の片隅でそれを理解しているのに、脳はそれについていけず、惰眠を貪っている。
だが、それではいけないと何度か頭を振ると、
そっと目を開けた。
目に映ったのは、“先ほどと同じ”路地裏の壁だった。
当然だが、死体も血もそこにはない。
それもそのはずだ、だって今はさっきの約“8ヶ月前”なのだから。

何万回も繰り返してきた街の匂いを感じながら、
路地裏から出れば、街中特有の喧騒がマドカを包んだ。
目的の場所がかなり近い場所にあるためそれほど急がずに歩を進める。

「おーい!お嬢ちゃん、一本どうだい?」

すると道の脇にある屋台からおじさんが顔を出し、
威勢のいい声を上げた。
見れば、どうやら串焼き肉の屋台のようだった。
そういえば、今朝から何も食べていなかったなと頭の片隅で薄く思い出す。

「あ、じゃあ一本頂きます」
にこりと微笑みかければ、おおよ!と親指をぐっと出され、にかっと歯をみせ笑われた。
「ほら、うまいぞぉ!」
差し出された串と交換に代金を渡しありがとうございます、と言えばまた来てくれよ!と太い声で言われ、苦笑を返しておいた。

焼きたてのようで香ばしい匂いを発するそれはとても美味しそうだが、先ほどの出来事がピリピリと思考を刺激する。肉の串焼きと少女の死体が嫌でも重なってしまう。嗚咽が喉元まで競り上がってくる。
串をつかむ手が震え、目の焦点が定まらない。



……私はさっき何をした
……私はさっき何を
……私はさっき
……私は

「……やめろ」

ぐちゃりぐちゃりと歪んだ思考を声に出して無理矢理積止める。
それと同時に串を口に半ば、突っ込む形で入れ乱暴に噛み千切った。

下味がついているのか肉の味がよく、噛めば噛むほど旨味が口全体に広がって、空っぽのお腹が満たされていく。

食べ終わって残った串を真ん中からぺきっとへし折り、丁寧にゴミ箱に捨て、また歩き出した。

今まで様々な事を何万、何千と繰り返してきマドカだが、今まで通ってきた道と違う道だからか、声をかけられ、初めてそこで串焼きを買い、食べた。
それはマドカにとってとても新鮮なことであり、一瞬だけ心躍る瞬間と言っても過言ではない。


なんて考えていれば、目の前に何万回目かの食堂が目に移った。
看板にでかでかと「めしどころ」「ごはん」と書かれている。
そこの扉をくぐり
絶賛調理中の厨房のおじさんに向けて

「奥の部屋空いてますか?……あ、目からうろこが落ちるようなステーキ定食、お願いしますね」

そこできりっとした鋭い目が向けられる
「焼き方は……?」

その言葉を軽く無視する形で勝手に歩を進め、
奥の部屋の扉に手を掛け、そこで振り返り言う。
「……弱火でじっくりことこと飽きるまで」
「入りな」
「失礼しまーす」

何万回目かの気のない返事をしながら中に入った。

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あきゅろす。
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