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狂った歯車は止まれない。
*1
「呆気なかったですね」
返って来たのは声ではなく、ガチガチと歯の根を鳴らす音だけだった。恐怖の余り声すらでないらしい。
だが、それも当然と言えた。なぜなら目の前にいる少女は今まで“最強”を誇っていた少女なのだから。
それなのに、今は地に這いつくばって端整な顔を恐怖に歪め、ガタガタと震えている。

右足は膝下からなくなり、左手は潰れ、所々骨も折れているはずだ。
壁や床に飛び散った血が薄暗さと相まって不気味さを伝え、濃厚な血臭が鼻腔を突き刺してくる。
少女は残っている手足で必死に私から逃れようといている。

「覚悟は決まりましたか」
「ヒィッ!ッイヤ、ア、アア」

少女はビクリと肩を揺らし、奇声とも取れる悲鳴をあげた。
覚悟が決まったかと、聞いたが少女の意思を聞くつもりはなかった。どう答えようが殺す。確実に。
それは運命の神が決めてしまった事であり、少女も私にも覆すことが出来ない運命だ。

「天使の裁き-エンジェルズジャッジメント-」
「アアアア゛!!イヤ、イヤアッ!!」
何万回も繰り返したその名を呟く、その名の意味を知る少女は狂ったように叫んだ。

呟いた声に呼応するように開いていた手のひらに大剣が握られる。光によって形成された刃は、淡く輝き、実に美しい。
最高で最強の、絶対無敵で最低最悪、残虐で残酷な私だけの神剣。




握る手に力を込めれば、それに答えるように重圧な感触が手を押し返し、ズシリと重みが伝わってくる。
私にとって唯一無二の愛すべきものであり、
同時に、この剣と私を巡りあわせた運命の神をズタズタにして豚の餌にしたい程に憎らしいものでもある。

少女を一瞥すれば、今もなお奇声を上げている。
綺麗だった髪は乱れ、高価であろう服は血や泥で汚れきっている。
「楽しかったですか?人を殺すの 
楽しかったですか?人の死に触れるのは。
 これが、あなたのして来た事ですよ。
 人を殺せるのに、殺される覚悟はないだな
んて不思議だと思いませんか?」

そう問いかけても少女は答えない。荒い息を繰り返すのみで、聞こえているのかすら定かではない。

「……生まれ変わったら、素敵な運命に巡り合えると……良いですね」

剣を逆手に持ち、少女の頭に向けて、


一気に振り下ろした。
「ギィアッ!」
甲高い悲鳴を上げて少女は動かなくなった。
盛大にかかった返り血に眉を寄せながら
絶命しているであろう少女にもう一度剣を振り下ろす

振り下ろして、振り下ろして、振り下ろす。

もはや原型を留めていない頭部の次は、
残っている四肢を絶ち、体をそれぞれの部品に切り分けていく。

“その体が消えてなくなるまで”

散々、突き刺し、また剣を振り下ろそうとした時、
人所か肉の塊になってしまっている少女が
光に包まれ、指であったであろう所から徐々に消えていった。
その光を確認すると振り上げていた剣を下ろした。
周りに飛び散った血や肉もろとも消えていく少女を
冷え切った心で眺めていた。

**************
完全に跡形もなく消えた、少女を目視すると
懐から携帯を出し、一件しか記録していないそれを押す。
丁度、三コール程で、その人物は出た。
「誰だ」
「座天使-トロウンズ-です。目標、殲滅しました」
「御苦労、早速だが次の目標殲滅に取り掛かってもらう。 時間は“軸”だ。すぐに跳べ。」
「了解」

感情を感じさせない声で告げられた。
私はただそれに従うのみだ。

服の袖を上げれば、普通よりも一回り大きな腕時計が顔を出す。それに触れ、小さく呟く。
「……巻き戻せ」
その瞬間、ぐにゃりと空間がゆがんだ。
それが腕時計に吸い込まれていき、私自身もぐにゃりと歪んでいく。
まるで、眠りに誘われるような、抗いがたい欲求の渦に飲み込まれる。










私は目を閉じ、それを受け入れた。












 







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