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必死に追い掛けてくる舌と指に翻弄されて、藻掻くオレはあっという間に体力を失った。

その様子を嬉しそうに眺める皆瀬はオレの額に一回キスを落とし、腰と膝に腕を入れ、抱き抱えながら違う部屋に連れて行った。


がちゃりと後ろ手に鍵を閉めた皆瀬を朦朧とした意識の中で眺め、ふんわり白いベットに身体を沈ませる。

あぁ、これから何をされるのだろう。と、一瞬そう思ったが、皆瀬の後ろに広がる人物と目が合って思考を止めた。



「ッな、んだよ、この部屋。」

「…えっ?」

「き、気持ち悪っ…なんでっ、なんでこんなものが…お前、」



笑顔でいっぱいの写真は壁一面に拡がって居て、オレの心を再び凍結させた。

この顔の人間はどこから、いつ、撮られたものなのか。皆瀬は何がしたいのか。


時が止まったようにオレは天井の『オレ』を見つめていた。



「何だよこの写真。」

「・・・。」

「ああ、なるほどな。こうやって執拗にオレのこと、ずっと付け回してたんか。まじでキモいな、ありえねー…」



その部屋の天井だけじゃない。壁もドアも、全部オレの顔でいっぱいに。

遠くから撮られたオレ、講堂で撮られたオレ、食堂、街、屋敷に入るところまでもばっちり撮られていて…
自分でもビックリするぐらい写真の中のオレはいろんな表情をしていた。


皆瀬の異常な想いは汚らわしい。何を毎日想像されていたのだろう、オレは。
そう考えただけで全身、酷い寒気に襲われた。



「この写真も、全部っ…俺は貴方を愛してるから…ずぅっと、ずっとずっと前から貴方を、愛してるんだ。」

「・・・。」



拙い言葉で縋るようにオレを見つめる皆瀬に威圧感のカケラも無かった。最初の、全て見透かされたような視線を感じたのはこれの所為かと、客観的にオレは感じた。

もちろん男に告白されても嬉しいはずは無く。



「報われなくても、貴方が居なかったら俺は生きていけない。今だけ、今だけ…ここに居て、嘘でいい、俺のこと…好きって、好きだって言っ

「吐き気がするな。」

「…むつ、みっ、」

「うっせー!お前なんかクビだよ!二度とオレの前に現れんなッ!」



言葉の綾だろうか。

何故、嬉しくない告白に胸が痛むのだろう。
何故、あんなにアイツの笑顔を見たいと思ったのだろう。

何をしたらいいか、全て分からないままオレは汚い部屋から飛び出していた。









身体を何度もごしごし洗っても、触れられたカラダの熱は冷めきらないでいた。

風呂からあがって敢えて避けていた自分の部屋に戻る。
そういえばあの変態、この枕に顔を押し付けながらオナニーしてたっけか、気持ち悪りぃ…
しかも人の布団に汚いザーメン散らしやがって。なんで新しいのに替えてねぇんだ、メイドは。



「おい、メイド!」

「はい、六実様…なんでしょう。」

「なんでしょうじゃねぇーよ、この汚い布団!みりゃ分かるだろ?こりゃ辞めたあの変態秘書のだ。さっさと捨てて新しいのに替えろ。」

「あ、はい。申し訳ありません六実様…」



女のメイドに汚い布団を替えさせて、オレは部屋を後にした。

風呂場を出ても、部屋を出ても、皆瀬の顔。

秘書になってオレに近づいたのも全部、最初から仕組まれたものだったのか。と、今更アイツのことを考えても気持ち悪くなるだけ。そう思った。



「もしもし…春彦君、一昨日の昼、六実が家に行っただろう?」

(――――――。)

「何を、今から私が行くからそこで待っていな

(――――――。)

「は、春彦君?!」



父は血相をかいて皆瀬の応答を聞いていた。

それも他人事のように聞いていたオレは、バスローブの紐を強く締め直し、澄ました顔で父を眺めた。



「なぁ、六実…お前、春彦君に何をしたんだ?」

「んぁあ?何をしたって、親父…アイツがいけないんだぜ?いきなり俺のこと好きとか言」

「あぁ!大変だ…どうしよう、こんなことは初めてだ。六実、お前って奴は本当にっ…!」



動揺する父に声をかけないオレは脅されたのかとでも思った。

慰謝料でも要求してきたのか、あの変態。



「春彦君が自殺すると言っているんだっ!どうしようも、行くと言ったら社長が来たら本当に死ぬと言われて…何かガサガサと音を立てながら話していた。」

「は…」



慰謝料でも無く、命の脅しをしてきた皆瀬。
ほって置けばいいと思ったオレはどっか遠くに飛んでいて。

気がついたら着替えてダッシュで家を駆けて行った。





[*Ret][Nex#]

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