◇
早速次の日、オレは社長不在の社長室に皆瀬を呼び出した。
まずは軽くご挨拶程度。
いきなり変なことをしては怪しまれるので、手始めに金を貸してくれと頼んだ。
前の秘書と同じ、言う通りに財布を取り出した皆瀬は札入れをガサガサと掻き、オレの手の平に金を乗せた。
「ん、これっぽっちか?」
渡された金額は二千円。
真剣な眼差しで一瞥した皆瀬の態度。今までの奴らとは何もかもが違う。
なけなしのリアルな金額に少し退いたオレは思わず嫌な顔をしてしまった。
「申し訳ありません、六実様。持ち合わせが今これ以上ありませんで。」
「うんっ、まぁいっか…後でちゃんと返すから、今日はもう帰っていいぜ!」
「はい、失礼しました。」
勿論返す気はさらさらない。
巻き上げても文句を言わない。
これはまだまだ許容範囲だ。
しかし、金額はどうだろう。
前の奴らはいくらですかと言って予め用意されたように束で金をくれた。
だけど皆瀬はそうじゃなかった。自分の財布に入ってた有り金を全部をオレに渡して何もなかったように去っていった。
もしかしたらカード派なのかもしれない。
実は倹約家なのかもしれない。
と、いろいろな問題定義は出来たがさらに翌日、それは父の言葉によって疑問解消された。
「春彦君…実は彼、幼い頃に両親を無くしているらしくてな。身寄りも居なくて高校まで児童施設で育ったらしい。」
二千円なんて端金だと思っていたが、皆瀬にとってはそうじゃ無かったのかもしれない。
それを聞いてちょっと良心が痛んだオレは急いで別室に行き、父の服を整えている皆瀬に話し掛けた。
「皆瀬、悪かった。コレ…昨日のありがとな!」
「いえいえ、六実様。この程度でお礼などいりません。申し訳ありませんでした。」
お礼したオレに謝る皆瀬。
でも表情は固まったまま全く謝っていなかったから、無表情を貫く皆瀬にオレは少し不信感を覚えた。
◆
それ以降、皆瀬から金をふんだくることは止めた。
が、日々過ごす度…
皆瀬を見る度にオレの中でコイツの化けの皮を剥がしてやりたいという気持ちが芽生えはじめていた。
次なる作戦を考えたオレは秘書室で黙々と仕事をしていた皆瀬を見つける。
そこにはいつもと変わらぬ冷淡な顔があって、こんにちはと挨拶された。
喋り方はとても優しい。でも、どこか切なげな瞳。
すかさず背後に回り、マウスを包む皆瀬の指先に触れてみた。
その一瞬、皆瀬の肩が揺れたのが分かり楽しくなったオレはさらに指を絡めてみた。
けれど表情を見ると変わらず平然とパソコンを見つめている。
内心はどうなのだろう。
「なぁなあ、みなせっ!今日どっか行かねぇ?」
「六実様、申し訳ありません。仕事中ですので…それはまた、後ほど。」
これも前の奴とは違う反応。
簡単に断られて意気消沈したオレは冷たく大きい手から離れた。
「ホント、秘書ってお堅い奴ばっかだよな!絶対童貞だろ、お前ッ!」
冗談混じりに言ったキツい投げかけにマウスを動かす皆瀬の指が止まった。
一息置いて後ろを振り返りオレを見つめた皆瀬は文句を言いたげな様子だった。
「六実様、ご冗談…お止めください。」
「あ…は、ごっ…ごめんっ、」
コイツのことだから、もっと強気に反抗してくるかと思ったけどそれはなく。
皆瀬はオレを静かに叱って仕事を再開した。
つい謝ってしまいその場に居るのがとても恥ずかしくて、オレは黙って走り去っていた。
[*Ret][Nex#]
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