clash cross
皆瀬との恋人ごっこが終わって中村とばかり毎日毎晩セックスするようになった俺は会社にも行きたくなくて家にも帰らなくなっていた。
父の世話になるのもバカらしくて携帯も解約。違う番号と機種に変えて家族はもちろん会社の上司、皆瀬とも全く連絡を取れなくした。
「あのさ…藤堂、」
「何、」
「俺、もう面倒になった。お前と居るの。なんか飽きたんだよね、」
家に帰らなくなって二ヶ月間、ずっと中村の家にペットのよう居座っていたら突然予想してなかった言葉を言われた。毎晩バカみたいにセックスして酒飲んで自堕落な生活をしている俺に嫌気がさしたようだ。
それでも現実が受け止められない俺は誰からも必要とされていない恐れから叫び、何故か理由を中村に問い掛けた。
「お前は…皆瀬春彦のことが忘れられない。」
「は?」
「いつもお前の心にはアイツが居てアイツじゃなきゃ幸せになれない、俺はそう思う。」
ずっと分かってたとブツブツ、小さな声で思いを話しはじめた中村は震える拳を抑えながらアイツはお前のことしか考えてないと、幸せになるのは自分じゃなくお前だけと、皆瀬の思いを皆瀬じゃないのに俺へ伝えた。
将来を見通せなかった、皆瀬の思いも皆瀬への自分の思いも中村の答えも。
全部信じられなかった俺に責任があるのに。
「夢でお前言ってた…」
「な、何を…」
「皆瀬、ってずっとアイツのこと呼んでた。間違い無い、お前は俺じゃなくて『皆瀬』をはっきり…求めてたぜ?」
笑いながらさよならの合図に手を振り、俺の荷物を玄関に放り投げた中村はトイレに篭ったきりそれっきり出てきてはくれなかった。
体を重ねて大切な親友から男へ変わった彼は俺の幸せを思いこんなことしてくれたんだと思う。
「…中村、ありがとな。」
小さく深く、姿は見えなくとも心を込めてお礼を言い俺は荷物を担いで一目散に外へ飛び出した。
きっと何も変わらなくても、皆瀬の笑顔を見たい一心で長い道程を走り皆瀬の声や身体の熱さを愛おしく思い返していた。
◆
会社の状態を全く知らず社長室に入った俺の目の前にはだらしなく口をあんぐり開け、椅子に座り踏ん反り返る父の姿。
何も食べていないような感じでただ呆然と一点だけを見つめている。絶望の淵にいるような辛い顔を俺は初めて見た。
「親父、」
「六実…?」
「ど、どうしたんだよその顔…なんかあったのか?」
しばらく会社に居なかった俺は何も知らなかったのだが、なんとパウロニアコーポレーションとの契約が破談しさらに皆瀬もどこかへ居なくなってしまったと言うのだ。
大切な右腕を失い、大切な契約も無くなり途方に暮れる父はお前の所為だと俺の胸倉を掴んで暴れ出した。
「こうなったのも全てお前の所為だ、六実!それにハルもだ!桐谷さんとウチを繋ぐ最後の砦だったのに!」
「…親父っ、」
「もう終わりだ…、どうして…どうしてこんなことになったんだ…」
桐谷さんと皆瀬の間に何があったのか。知らない俺は叫び暴れる父を退いた目で見ていた。パウロニアコーポレーションとの連携が要だったウエステリアカンパニーに今求めるものは無い。
最終的には倒産か、そこまで今の時世・経済は悪化しているのだ。
「失礼します、」
「っ…!?」
「社長、この度は大変申し訳ありませんでした。桐谷さんと上手く夫婦として生活出来なかったのは私に全て責任があります。本当に申し訳ありませんでした。」
そんな父を呆然と見ていた俺の目の前に、迫力のある人を威圧するようなオールバック。鋭い瞳を隠す眼鏡、厚い体を覆うスーツ姿。
ずっと探していた、ずっと俺が求めていた皆瀬春彦がそこにいた。
[*Ret][Nex#]
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