Mr.Twilight
國谷 恵一
クヤ ケイイチ
17歳 186cm
冷血なためクラスでは浮いている。友達があまり居ないが、当たり前に女子からモテる。
遠野 梓
トオノ アズサ
17歳 166cm
女の子が好き。何にしろ受け身、優柔不断。
◇
気付きから十年目の春。桜は固く蕾は開かず、暖かい季節に移り行く様を見送る時期。体育館から校舎を結ぶ渡り廊下で蹲る君の肩を叩いて教室へ戻るよう促す。
俺はずっと見つめていた。
キミとの未来を、キミとの甘い日々を、淡い期待を胸に抱いていた。それでも現実は意地悪で、一つのズレをキッカケに破滅した。
「澤村さんは?」
「えっ?」
「今日、一緒に帰るんだったろ?大丈夫なのかよ、」
「ッあ、あぁ…へ、平気だよ。」
いつも受け身の愛しいキミ。
俺がもし女で先に告白していたなら受け入れてくれてただろうな。でも間違いなく俺は立派な男だ。今の俺じゃなきゃ慈しみも憎しみも、愛しさもこんなにも感じないだろう。
しかし“もし”なんてことがあったらこの思いが無駄になる。忘れて清算しなきゃいけないカラダの吐瀉物、汚らしい思いが。
「いつからだ。」
「へっ?」
「いつから澤村と付き合いはじめたんだ?それもなんで俺にだけ言わなかった?後ろめたいことでもあるのか?なぁ、梓…」
「・・・。」
場所は変わって3-4の教室。生徒はみんな帰って空は黄昏。歯を食いしばり今にも泣き出しそうな哀しい顔が教室の窓に映って情けない俺と黙り込む愛しいキミ。下を向いたまま、指を重ねて黙り続ける。
ああ、今俺がここで大罪を犯したら一体どうなってしまうのだろうか。きっと理性など忘れて、キミへの想いをぶちまける、キミからすれば制御不能な性的倒錯者になるのだろうか。
「はっきり答え
「クリスマスからだよ!クリスマスの夜に突然告白された。どうしてだか経緯は分からないし、な…なんでボクなのかも全然、分からない…でも好きって言ってくれた彼女の気持ちを無駄にはしたくなかったし…ゴメンね、ケイちゃん…ちゃんと報告はしなきゃいけなかったんだけど、」
「・・・ゴメン、ね?」
まだきちんと、俺の口から梓に愛は伝えていない。それなのにもう結果は出ているみたいに、はっきり遮断されて俺は何もそれ以上言えなくなってしまった。
脳裏には今までの、梓との思い出がループして悲しみの感情を沸き上がらせる。
小学校のときからずっとそばに居て、隣に居るのが当たり前だった【遠野 梓】(トオノ アズサ)は確実に笑顔であった。でも今目の前に居る遠野梓はまるで別人、男になってしまったというのか。
「あずさ…」
「ん?!け、ケイちゃん?ど、どうした…の?えっ、」
「いいから黙って、」
「やっ!ケ、ケイちゃんんっっ…!!!!」
泣き出す寸前の子供のような、怖がる瞳で俺を捕えるかわいい梓がただただ愛しい。いつだってそばに居てくれた梓、隣で笑ってた梓、無垢な表情で眠る梓、こけて泣く泣き虫な梓、どこから俺は間違えたんだ。いつからこんな愚挙に及ぼうと思ったんだ。
綺麗な思い出だけじゃない、いつからか性の対象になっていて、気付いた時には既に俺の過去も未来も夢も、全ては遠野梓…キミで成り立っていた。
「好きだっ…、」
「・・・あっ、んは、」
「好きなんだ、愛してる…梓、梓、だから…」
「やだ、ケイちゃんっっ!!!」
早急に唇を塞ぎ込み、自分の息を梓に送る。苦しい顔で藻掻き足掻く梓を見てはもう何もかも取り戻せない。
小学校から中学校、それは春のように心地好い、穏やかな時の流れだった。中学校から高校、それは嵐のように衝撃的且つ刺激的な性の芽生えた時期だった。
そして今、凍りつくカラダを抱きしめて欲望をぶちまける、未来なんて一寸先も見えない。もうこうなったら後には退けない、分からない、分かりたくない哀しい現実の始まりだった。