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「貴方は、貴方達は東雲社長の所為にして自分たちを正当化しようとしているだけだ!」
「黙れ!」
「っぐぅっ!!」
「お前はな、白藤を脅すための囮なんだ。大人しく犯されてればいーんだよ」
荒々しい口調で今までとは全く違う態度の冬弥さんは僕の顔を平手打ちし、冷たい目で倒れる僕を見下ろした。その時、寒くないのに全身に悪寒がして僕は騙された自分を憎んだ。
黒薔薇はきっと俺が悪いと言うだろう。でも、僕だって悪い。大金目的でドーフオークションに行って、黒薔薇との甘い日々を忘れようと必死に過去を打ち消そうとして、優しい冬弥さんに心惹かれつつあった。だからそれが悔しくてたまらない。
「ガツンと行きますか」
「と、冬弥さんっ!!」
「お前らはしっかり抑えとけよ。俺のはすごいぜ、サキちゃん…黒薔薇はお前じゃなくてもたくさん抱ける汚らしい男なんだ。それに、そこに愛は無い…だけど、俺は君のこと…」
「違う!黒薔薇は…」
節々がくっきりと浮かんだ太い男の指が一本、僕のアナにグッ、と入っていく。何も使わず、全く濡れていない穴を開拓しようとヌッヌッと奥に指は挿入され、上側をツボ押しのように押される。
黒薔薇、白藤玲二はその間、奴の手下であろう黒服の男達にボコボコと殴られていた。僕を呼ぶ声なんてもう聞こえない。向こうはそんな意識も無いだろう。僕のアナを刺激する微かな音と激しく殴ったり蹴られたりする打音のみがこの部屋に響く。
「俺には愛がある。サキちゃん…黒薔薇との悲しい思い出は僕が浄化してあげるからね」
「んっ!!!」
「ここ気持ちいいでしょ?ね、どう?」
「がっ、そ、そこは…ああっ!」
はしたなく大声を出す僕は中にあるツボを押されて悶絶していた。この男は相当のやり手なのだろう。愛があるなんて簡単に口にして、僕の身体を瞬く間に開拓してゆく。こんな無様な姿で、こんな情けない表情を僕は一番見られたく無い人に見られているのか。
罪ならこの心臓ごと痛みに刻まれて消えてしまえばいい。波のように当てもなく寄せては返すこの壊したい想いを僕はずっと大切にしてきた。今となってさみしくて声が聞きたくて、もう一度抱きしめて欲しくてずっと、ずっと必要とされたくて黒薔薇だけを愛おしんでいた。
それなのに、それはもう叶わないというのか。
「ああっ、気持ち良さそうだね」
「冬弥さんっ!」
「でもダメだな、これじゃ。全然濡れやしねぇ…ローション使うか」
「ぬぅっ!!」
「こうして…白藤は幼い君を犯して来たんだろうね」
「あっ、あっ!ああっ!!!!」
「でも白藤はもう…ああ、使い物にならないようだ」
「ふぐぅうっー!んんっ!!!」
左に目を向けると僕と同じように四肢を拘束されて猿轡をかまされ泣いている黒薔薇の姿があった。
ローションを身体にかけられ、ひんやり冷たいそれがペニスにまとわりつく。くちゃくちゃと汚らしい音を立てて太い指がまた僕のアナに入ってくる。かき回すように慣らされたそこにピタリと当てられたのは大きくそそり立った冬弥さんの男性器。泣いても暴れても、助けは来ない。
「さよなら、黒薔薇さん…よし、挿れるか」
「やだあっ!やめて、やめてぇ!」
「んぐああっ!!?」
「えっ…」
男性器が押し込められそうになった瞬間、大きな冬弥さんの身体がバタリと僕の上に倒れて僕は見知らぬ人に助けられていた。
長身でスーツに身を包んだ二人の男。
一人は金髪で落ち着いた雰囲気。瞳がキラキラ輝いてハーフっぽい顔立ち。もう一人はその男より背が高く、垂れ目で赤茶色の短髪だった。
「三河内さんっ!」
「残りも…やっちゃいましょうか」
「ぐっ!うああっ!!!」
プロの格闘家のような俊敏な動きで残りの手下も全て消していく二人。裸の僕はそれをあんぐり見ているだけ。拘束されていた黒薔薇もそんな感じだった。
バシバシと蹴り上げ長い手足で圧倒する二人は僕の味方なのだろうか。敵が全員床に伏せた時、出入り口から見覚えのある姿が見えて僕は涙していた。
「臨!」
「な、奈緒…?」
「大丈夫?助けに来たよ。とりあえずここは危険だ。逃げよう!」
「ま、待って奈緒、黒薔薇も…一緒に…」
「コイツもか」
「えっ?」
「藤村、國谷、その男も連れてけ」
「はい!」
小さな身体のソプラノボイス。サスペンダー月のズボンに白いワイシャツ、赤いネクタイを付けて僕を助けてくれたのはドーフオークションで親友になった塚原奈緒とその仲間達だった。
久しぶりの再会に涙が止まらない僕は奈緒の胸を借りていた。こんな僕にも仲間がいたのだ。奈緒は幸せになれたようだな。この人達を見ればわかる。とても嬉しい。
「くそっ!てめぇは誰だ!」
「誰にその口をきいている?」
「偉そうにしやがって、このクソジジィ!」
「ジジィではない、私は西大路だ。聞いたことある顔をしているな。ならば手を引け、ノースストーリーもマーガレットも時間の問題だぞ」
「ぐっ、くっ!!」
奈緒を買った男は僕も知っている。鈍色の短髪に漆黒の瞳。銀縁メガネをかけている紳士的な中年男性、ウエストプリンスホテル社長、西大路道貴だ。
淡々と話す口調や声色は優しいのにも関わらず、威圧的で場の雰囲気をガラリと変える。
僕と黒薔薇は抵抗して疲れきった身体を彼らに委ね、その場から去って行った。
[*Ret]
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