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マーガレットの裏口から外へ抜ける。どういう道を行けばいいか、わからないけど僕は走って黒薔薇の元へ向かっていた。路地裏は生ゴミの腐敗臭が漂い、鼻を刺激する。野良猫を見送って明るい街路灯を目指して走っていると、黒服の男が五人、目の前に現れて僕を取り囲んだ。
どこかで見たことのある顔の男も居て、僕は危険を感じていた。こいつらは味方ではない。僕と、僕と黒薔薇の敵だ。
「崎田臨だな」
「っ、」
「おい、あまり乱暴にするなよ。こんばんは、サキちゃん、ちょっといいかな?」
「な、なんで…あ、あなたが…」
僕の両腕を掴み、拘束した黒服の男の中から出てきた聞き覚えのある声の持ち主は優しい口調と男らしく広い額、整った眉に赤みのある瞳、短くツンツンと立った髪。端正な顔立ちと長い手足が綺麗な三河内冬弥さんだった。
いつもと変わらない笑顔は僕の瞳を見ていて助けに来てくれたのか、それとも裏切りなのか、前者に対する過信がこみ上げる。しかし、この後受ける衝撃で僕は全てを理解できた。
「白藤、呼ぼうか」
「は?」
「五百雀さんも甘いな。まだ、俺が許さないよ」
「ごめんね、サキちゃん。あとちょっと、あとちょっとしたら解放してあげるから…一緒に来てね」
「やっ…?!やだ!や、やめろ!!」
黒服の男が僕の四肢を拘束して口を塞ぎ、暴れることも許さないくらい強い力で車に乗せる。人形のような僕は誰の力も借りれない。暗くて狭いところに押し込められる。
三河内冬弥は敵だった。
優しい声色が黒い笑いに変わった瞬間、僕は世界の全てが信じられなくなって叫びたかったけど、それすら許さない環境に苛まれていた。
◇
黒薔薇である白藤玲二は逮捕後、名前を変え東雲玲二になった。東雲玲二は親である社長の死後、財産で会社を設立させ事業を成功させた。安全な設計と斬新なデザインが爆発的にヒットし、競争する子供用玩具会社はどんどん潰れた。
グローバル化し、大成功したイーストクラウドとは全く違う転落生活を送っていた…それが五百雀氏と三河内冬弥だったのだ。当時サウスファクトリーに新入社員として入職した三河内の直属の上司になった五百雀は人懐っこい三河内を可愛がっていた。
しかし、会社は荒れる一方。
売り上げは伸びず、営業不振。
五百雀氏が社長に任命された年にそのおもちゃ会社は潰れたと言う。
急成長するイーストクラウドを恨んでいる彼らは東雲玲二の過去を洗い出し、わざわざ僕を探して僕を連れて東雲を誘き寄せたのだ。
僕はそれだけの道具に過ぎないのに、黒薔薇はそれでも姿を表した。
「…俺は許さないぞ、白藤!」
「キタノクンはどこだ!」
「チッ、お前はそれしか言わねぇな…そんなに会いたいなら連れて来てやるよ。お前ら、崎田臨を連れてこい」
「はいっ!」
先程見た姿と全く変わりない無防備な姿で僕を見る白藤玲二。あの時の想いが僕の胸を熱く焦がす。白藤玲二はとても愛おしげな瞳で僕を見てくれる。それは必ず。
僕のことを今でもきっと、好きで居てくれているに違いないのだ。
でも、それは三河内の手で引き裂かれた。四肢を拘束された僕は来て居た服を引きちぎられ、見るも無残な格好にさせられた。冷たい床に投げられ、周りを囲まれる。逃げようと暴れてもそれは敵わない。三河内冬弥は僕を犯す。言われなくても分かった。
「楽しいショーの始まりだ」
「やだあっ!!やだぁっ!」
「大好きなキタノクンが犯されるのをおとなしく見てるんだな、白藤」
「や、やめろおおっ!!!!」
大きな声で僕を解放するように懇願するが、その声も届かない。冬弥さんはカチカチと音を鳴らしながらベルトを緩め履いていたズボンと下着を脱いだ。
テラテラと輝く性器はそそり立ち、僕の前に凶器として現れる。その瞬間、僕の脳裏にふと黒薔薇との日々が思い出される。僕は、犯された男の前で犯される。心も、どこか飛んで行ってしまった。
白藤玲二が、あの黒薔薇が僕を見ている。
だけど、声は届かない。
「あの時以来だろ?サキちゃん、」
「ひっ、や、やぁあっ!!」
「ん?何で今更恥じらう?お前は散々、こいつに穢されてきただろう」
「違う!ぼ、僕は!」
顔前に冬弥さんのペニスが被り、僕は顔を揺らしてそれから避けた。汚らしい欲望が僕を傷つけようとする。
もし、ここで、黒薔薇の前で僕が本当のことを伝えたら彼は何と言うかな。愛とは呼べない感情だと否定されてしまうかな。
それでも僕は僕を助けようともがきながら涙してくれる彼にもう一度、彼に愛されたいと思っていた。
[*Ret][Nex#]
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