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艶事ファシネイト
金色の糸 -immoral-



野々宮と高浦の関係はすぐに分かった。
野々宮の話をまとめると野々宮の母親の夫である高浦は野々宮の本物の父親では無かった。父親は随分前に他界し、その後母親が他界し野々宮と高浦は一緒に住んでいたらしい。

大人の事情を知らない野々宮は高浦に全てを預けていたため、学校も途中から行かなくなったという。

その理由の一つに特別学級の担任教師からセクハラを野々宮本人が受けていたということがある。



「今しか選べないんだぞ、野々宮。」

「うぅうーんっ、えああ、」

「高浦が大切なら…仕方ないことだ。」

「とちえださぁんっ、」



野々宮は頭を抱えて悩んでいた。
自身が一番彼に近くて大きい存在であるはず自負していたのにとても切ない。

カネの問題以前に彼がいなくなってはドーフを辞めた理由にもならない。馬鹿げている。

野々宮は多分高浦を選ぶであろう。
それが彼の幸せであるのなら、失ったものは多いそれで彼が幸せになれるのであれば時枝はなんでもよかった。



「帰りなさい」

「ええー?」

「ショウちゃんのところに…戻りなさい」

「うう、とちえださんっ…」

「泣くなよ、野々宮。俺だって悲しいんだからっ、」

「あううぅっ、ぅーう、ごめんなさいっ、ごめんなたい、とちえだしゃんっ」


声にならない声で泣く野々宮を見て胸がぐさりと刃物で刺されたように傷む時枝も目には涙を浮かべていた。

きっと、もし、ここで別れてしまったらもう二度と会うことは無いと分かっていたから尚更。込み上げる思いが強く残る。彼を愛していたのは自分だけではなかった。他にももっと大切な人がいて自分自身に陶酔しすぎていたのかもしれない。


「高浦さんに連絡するからな」

「ううぅっ、」

「もう、これで一生会えないわけじゃないんだから。泣くんじゃない、昴。しっかりしろ」

「うううぅっ、」


時枝が何を言っても泣き止む気配は無く、何故これだけ泣くなら自分を選んでくれないのか。時枝は辛くて仕方がなかった。きっと高浦は相当彼を大切に育ててきたに違いない。自分なんてオークション前に無理やり犯して権力で手に入れたような悪人。

許されてはいけないに決まっているのだ。


「明日の朝、来るそうだ。今日は家でパーティにしよう。新たな旅立ちパーティだ。」

「うん、うんっ、ありがと」


ぐちゃぐちゃの顔を服の裾で拭い時枝に抱きつく野々宮はやはり幼かった。

舌足らずな口調と愛らしい笑顔が魅力的なんだ。それはとっくにわかっている。
でも、自分の魅力は彼に伝えることができなかった。

遊園地に行けなかったが、家の冷蔵庫には食材がたくさん用意されていたのでそれを下ごしらえして彼との最後の晩餐を楽しもうと時枝も涙を拭いキッチンに足を運んだ。






高浦からも性的な暴力を受けていた問題が脳裏を過ったが、自分よりも卑劣ではないはずと信じて考えるのを辞めた。

高浦以外に身寄りが居ない野々宮を果たして誰が競売にかけたのか、それも脳裏を過ったが考えるのを辞めた。


高浦が白の軽自動車でやって来たのを確認して時枝と野々宮は部屋を出た。タバコくさい車内に野々宮の荷物を運び、助手席に座る彼を見届ける。


「じゃあな、野々宮。元気でな」

「と、とちえだしゃん、ばいばい」

「ああ、」

「またあそんでくれるぅ?」

「ああ、」

「ゆうちえん、いってくれりゅ?」

「ああ、」

「おにしゃんととちえだしゃんとののと、かわべぇと、みんなであそべる?」

「ああ、」

「あとぉ、」
「野々宮!…また、な」

「あ、う、うん!とちえだしゃん、またね!」



いろんな思い出が脳裏を過ったが考えるのはやめられなかった。思い出すたび切なくて。つまり、泣きそうだった。

いくら足掻いたって野々宮は帰らない。彼は高浦を選んだのだ。まぎれもなく、自分ではなく高浦を選んだのだ。

またなんてあるわけないと分かっていた。遊園地にはもう二度と行けない。



「それでは、時枝さん失礼します」

「ええ、お元気で」

「とちえだしゃん、またね!!!」



暗闇の中、小さな車が見えなくなるまで時枝は道路に立ち尽くしていた。今から走って追いかければ間に合うかもしれないと思ったが、涙が止まらなくて動けなかった。こんなに人を人として愛したのは初めてだったからこそ、失恋に胸が苦しくなる。

鬼形や河辺に合わせる顔もない。

とぼとぼと家へ帰る時枝は身体が大きいのにも関わらず、覇気がなく全て抜けてしまった抜け殻のような成りをしていた。





[*ret]

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