[携帯モード] [URL送信]




浅井さんと風間さんが二人で話している場面に僕はいない。何故なら一歩も出て来てはいけないと風間さんに脅されているからだ。

風間さんと浅井さんが面識のあることに驚いている僕は浅井さんがこの事実を知ったらどうするか…見ていることしかできない。



「浅井は桜庭のコレを見てどう思った?」

「・・・。」

「片思いは哀しいね、桜庭くんは私が好きなようだ。この画像を消してもらうために一週間頑張っていたよ。大嫌いな君に抱かれるかもしれない今日恐怖を抱えてね。もうわかったと思うけど、」

「それでも俺は構わない。」

「は?」



断然優勢であると思われた風間さんの声を遮るように浅井さんが口を開く。全てを知ってもなお、浅井さんは構わないと言うのには深い理由があった。



「一週間前、新商品の発表があった日、プロジェクターのセットを桜庭に頼んだ俺はあいつがちゃんと用意できてるか心配で確認しに行ったんだ。そしたらあいつがお前の名前を呼んでいてな…それで桜庭は風間が好きなんだろうと分かった。だけどその夜、桜庭は俺の家に来てくれた。それが夢であろうと、なんであろうと今ここに桜庭が居る。そう思っただけで幸せで涙が出そうだった。」



会議室での僕の失態を知っていた浅井さんは何も知らないフリをして僕との一週間に付き合ってくれていたのか。それなのにあんな良くしてくれて、僕は本当に情けない。

真面目に僕のことを風間さんに話す浅井さんの話は続いた。



「風間、アンタが俺に恨みがあるのは分かっている…だから桜庭だけは許してくれ。」

「・・・。」

「桜庭はまだヨルヒに入ったばかりでこれからの人間なんだ。あいつには誰よりも幸せになって欲しいし、俺の所為でこんなことになっているのなら、

「そんなに桜庭くんが大事なの?」

「ああ、」

「なら君には消えてもらおうかな。君が居ると僕はヨルヒで上に行けないからね。」



僕なんかを守るために浅井さんは自分を身代わりに消えることを承諾した。どうやら風間さんが経理に留まっているのには浅井さんに理由があるらしく、多くのお偉いさんから気に入られて引っ張りだこな浅井さんがいずれ役員についたりでもしたら風間さんの出世街道は絶たれてしまうらしい。

前々からハイパードライの売り込みに精を出していた浅井さんは社長にとても好かれていた。さらに商品開発の人たちからも頼りにされていて同期で入ったにも関わらず自分の影が薄くなりつつあることを風間さんは恐れていたのだろう。



「分かった。アンタがそれでいいならそうしよう。」

「物分りがいいね。じゃあ早速退職届でも出してヨルヒから消えろ、浅井。」

「ああ、」



ポンポンと話が進み交渉成立。
風間さんは浅井さんに退職届を出すよう命じるとすぐにその場から去って行った。後ろ姿が消えるのを確認してから僕は猛ダッシュで立ち尽くす浅井さんの元へ駆け寄る。

すると目も合わせる暇なく素早く僕を抱きしめる浅井さんは熱く、胸の鼓動が伝わるぐらい酷く緊張していた。



「お前、ここにいたんだな。」

「浅井さん、ごめんなさいぃ、ごめんなさい、本当に、本当にごめんなさいっ…」

「夜に家で言うはずだったんだがな、さっき聴いたとおりだ。風間なんか辞めて俺にしろ。」



失うものが大きいはずの浅井さんは自分より何より僕のことを心配してくれていて僕なんかとずっと一緒にいたいと言ってくれた。なくなる事を恐れていたこのぬくもりは無駄に心地よくて優しい。

浅井さんの強さに落ちた僕は涙を流しながら大きく頷いた。




[ret*][nex#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!