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FIVE




7/27 (TUE)

昨日の酔い冷ましにこれを飲めと浅井さんからヨルヒフードが発売した栄養ドリンクを一本もらいグビグビ飲み干し会社に向かった。

ぎゅうぎゅうの電車の中、僕の顔を全く見ようとしない浅井さんはどうやら昨日の件(多分、姫宮達と飲んでいたこと)についてまだ怒っているのか外方を向いたまま。
吊り革に掴まりぼんやり景色を眺めていた。



「あ、浅井さん…」

「なんだ。」

「あの…すいません。バッグ、当たってます、すいません。狭いって分かっているんですけどっ、んんっ…」



何故今僕が外方を向いている浅井さんを見ているか…理由は一つ。彼のカバンが僕の股間にちょうどいい具合に当たっていたのだ。昨日は突然僕の大事なところに手を出した浅井さん。自分だけすごい快感を得てしまってあんな醜態をさらしたのもあり、今日はなんだか恥ずかしい。

背の高い彼の握り拳が下腹に、カバンの角がその隙間にフィットしちゃう感じ。わざとじゃないのだろうけど、一応…念のため確認をした。



「あぁ、本当だ。」

「だっ、ああ、あの…どけてくれませんかっ…?」

「うむ、退けてあげたいのは山々なのだが…そこ以外にスペースが無くてな。あと2駅の我慢だ。頑張れ桜庭、」



実際問題、浅井さんのカバンが居られるスペースは…無い。でもアンタがちょっと努力すれば何とかなるだろうと思うんだ!

間に挟まれたカバンを避けようとお尻を揺らして僕はコツンと当たる鬼畜非道悪魔冷血鬼上司の高そうなカバンを回避してやろうとした、

のだけど…



「おっと!」

「んっ!?」

「すまない、桜庭。電車ってのは利便だが時にはとても不便なものだよな。あと2駅の辛抱だから…な、」

「ちょ…ちょっと何してるんですか、浅井さんんっ!」



ぐらりと電車が大きく揺れた瞬間、引き寄せられた僕は浅井さんの厚い胸にすっぽり埋まってさらに彼と密着してしまった。

これは先程のカバンと違って明らかに故意だと分かった僕は必死に暴れようと思ったのだが、他のお客さんにも迷惑をかけちゃうし大人しく。微動だにせずただ浅井さんに抱かれる人形のよう立ち尽くしていた。



「ふぅー…、なんだか落ち着くな。まるでペットを抱きしめているみたいだ、」

「・・・。」

「世話が焼けるペットだが…別に悪くは無いな、」

「・・・。」



耳元で囁かれた意味深な言葉に胸がドクドクしたことは誰に言うまでもない。

浅井さんの声が低くて温かみがあるからか、少し優しい響きに心が弾けそうになった僕は彼の言う通り2駅分我慢して電車に乗っていた。









オフィスに付くと僕の机にたくさん書類やファイルが積み重なっていて、知らぬまに仕事が増えていたことに驚いた。その大量に置かれた書類を見て姫宮はうんうんと大きく相槌を打つ。

きっと百瀬課長が僕に渡した仕事だろうと思い、僕は課長の席に向かって抗議した。



「課長!これは一体、」

「ああー!これはカズくん…昨日のや。これぐらいなら軽い方やし大丈夫やろ?」

「むむっ…、そうでした。昨日の話…の、通りです…ね、」



実は昨日、浅井さんがミスを半分回避してくれたあと。課長に怒られた僕は何でもやりますと意気込み課長にチャンスをもらっていたのだ。

カズくんの志気に賭けると信じてくれた課長は明日から仕事を少し増やすと言って…今日はその延長だった。



「んまぁ、これは午後でもえぇからな。今からはまたヨシダさん所行って…チューハイを宣伝していかんと、」

「は、はいっ!」

「みんなよく聞いてな!今日の担当はヒメと俺がヤスノさん、武田とムラちゃんがテクノスーパーさん、浅井とカズくんがヨシダさんな、」



結局失敗した自分がいけないのだけど、さらに今日の営業担当があの浅井さんと一緒…しかも二人きりなんて最悪だ。

大声を張り上げた課長や姫宮達もそそくさと書類をまとめオフィスを後に。残された僕は無言でカバンに荷物をまとめる浅井さんをじっと見つめながらため息をついていた。





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