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ヨシダ薬局に向かうと入口付近で頭を下げているスーツを着た謎の集団を目にした。

センターには派手なスカーフを巻いている百瀬課長の姿。そのおかげで遠目からでもすぐ三課の皆だと分かった。



「遅れてすいません、…課長、どうしてここに?」

「あー…君の所為とは言わんけどな、カズ君。ヨシダさんトコの発注書…送ったん君やろ?」

「あっ、はい…それがどうかしましたか?」

「発注ミスや。今日来るはずのスピンスマッシュが0やて。今、浅井が本社行って調べてくれとるけど、初日やし在庫があるかどうか・・・」



今日の朝早く、ヨシダ薬局さんへのスピンスマッシュ100ケースが届いていないと言う報告があり、確認を取ったら発注書が届いていないとのこと。ありえないミスに憤慨したヨシダさんへ謝罪を、と浅井さんの判断で三課全員かけつけたらしい。

ヨシダ薬局さんは新しい取引先で、営業許可を取った時は課長も浅井さんもみんな喜んでくれた。それなのに、僕は自分で掴んだモノを自分で壊してしまったんだ。

任せられた初の仕事で、組んでいた姫宮と頑張らなきゃって気合いも入っていたのに…全部、僕の所為だ。



「…桜庭、気にするな。初めてだったし仕方ねぇよ、」

「姫宮、ご…ごめんっ、」

「俺に謝るんじゃなくて、お前は吉田社長のトコ行って来い。メソメソ顔で帰ってくんじゃねぇぞ。」



許してくれた優しい姫宮に背中を押され、僕は吉田社長の元へ謝罪しに向かった。

浅井さんの姿は見えなかったけど、自分の担当以外も責任を持って仕事をしている要領の良さに僕は感心していた。









浅井さんがスピンスマッシュの製造工場に連絡してくれたおかげで発注数の半分は確保することができた。

一安心だけど、過失は半分。僕は吉田社長にたっぷり怒られ、課長にもたくさん注意された。



「吉田社長、"私"のミスで今回、多大な損失を招いてしまいまして誠に申し訳ありませんでした。」

「50は入るんだね?」

「はい。問い合わせた所、今日は50、明日以降なら100入ります。全ての責任は私にあります。本当に申し訳ありません。」



浅井さんが僕のミスを自分がやったとして社長に謝罪している。さっき僕が発注したんです。と、吉田社長に謝ったばかりなんだけどな。

プライドの高い浅井さんがあんなに深々と頭を下げる姿なんて初めて見た。



「次回、このようなことがあったらヨルヒさんとの契約は打ち切るからな。」

「ってことは?」

「浅井君、君に任せたよ。」

「あっ、ありがとうございますっ!!!」



契約打ち切りの危機に浅井さんの誠意が吉田社長に伝わったみたいで、吉田社長はニコニコ笑顔で浅井さんに握手を求めていた。

…さすが浅井さんだな。



「桜庭、よかったな。」

「浅井さんのおかげだよ、」

「良い人だよな。」

「うん…」



いつも怒ってばっかりの浅井さんだけど、今日は責任を負って僕を庇ってくれた。

―責任を負ってまでも、僕を?

いや、誰がミスしても仲間にはきっと優しい人なんだ。何をまた自意識過剰なことを考えているんだ、僕は…



「桜庭。」

「浅井さん…ありがとうござ、

「ホンット、バカな新入社員の為にこの俺がわざわざ頭を下げて謝るなんて、貴重な事だったな。」

「ごっ、ごめんなさい…」

「早くオフィスに帰るぞ。まだ仕事は山積みだ。」




大声で怒られたけど、不思議と前より嫌じゃない。逆に少し目を反らして僕を怒る浅井さんがちょっぴり可愛くみえる。

浅井さんのフォローに安堵した僕は急いで車に乗り残っている仕事を片付けに会社へ戻った。




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