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碧螺春の宴
白銀の少年の嘆く親子の願いを・2
その日のエディスさんは変だった。
そわそわと落ち着いていなくて。
よく僕の髪とか顔を撫でた。
まるで忘れずに覚えていようとするように。
まるで確認するように。
ひときわ大きい人の歓声が聞こえたとき、人が来た。
その人がエディスさんを目で捕らえたのを見て、僕はやっと理解した。
エディスさんが、遠くに行ってしまうのだと。
「エディスさ・・」
「エディ・・エドワード!」
僕が吹くの袖を掴むより早く、エディスさんが僕を抱きしめる。
「ああ! 出来れば貴方も連れて行きたかった・・! エドワード・・私の」
蒼い瞳がゆらりと波打つ。
「私の・・息子」
お母さんとは言えない。言ったらダメだったんだと思う。
とにかく、僕は黙って堪えていた。
「あの歌を、舞台に上がる時に歌いなさい。そうしたら、お父様が迎えに来るから。・・いいわね。
絶対にお父様、この国で一番偉い人が貴方を6歳までには迎えに行くから・・」
「エディスさん・・」
目の周りがあつくなって、エディスさんがぼやけてくる。
「エドワード。エドワード・ティーンス。それが貴方の名前よ。いい? 覚えて置くのよ、しっかり」
「うん・・」
「これからは私の名前を。エディスを名乗りなさい。いいわね?」
「・・・うん・・・」
ぎゅっとその胸にとびついていく。
柔らかくてあったかい。甘いお花の匂いがする。
「エドワード。愛してるわ。だから、這いずってでも・・生きなさい」
あたたかさと匂いが離れた。
それに目を上げても。
もう・・いなくなっていた。

母を思うには十分な時間だった。

でも


母を知るには、足りなかった。


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あきゅろす。
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