[携帯モード] [URL送信]

碧螺春の宴
白銀の少年の歌う穏やかな約束を・後
「エーディー」
つん、と家に帰ってきた後、ずっと黙ったままだ。
俺は悪い事をしていないはずなのに・・。
「兄さんアイツと浮気でもしたの・・?」
エドワードが子どもの素朴な疑問を呟く。
「・・・アイツはそんなんじゃない」
ギリッとエディスが唇を噛む。
「アイツは、お前達にとっては頭のおかしい変人にしか見えないだろうな。・・だけど、俺にとっては・・」
そこまで言って、エディスは自室に引き上げてしまった。
言っても分からないだろう、という諦めが、見えていた。
「・・・・・・どうしたのかな、エディー」
「何時もだよ」
エドワードが機嫌悪そうに低く言う。
「兄さんは、何時もそうなんだ。アイツを大切にしすぎてる。友達って言ってるけど・・何だかちょっと、変だよ・・」
ぽんぽんと頭を叩くと、エドワードが引っ付いてきた。


「私は私です 他の誰でもありません
北の海に投げられた
真白い小石に似ています
どうか それを拾ってください
それは私であって 私ではありません
貴方が私をそれと思うのなら
私は私では なくなるのでしょう

天から使った貴方が私の主です
それは神が決めた幸福なる鎖
私を見てください 私を愛して下さい
どうして 愛さないなどと神は言うのでしょう
私が 貴方を愛すように
人は私を愛してくれるでしょう

私は私ではありません
私は何かになりたいのです」
夜の冷たい空気に澄んでいるけれど、大輪の甘い薔薇のような声が染み渡る。
「久しぶりに聞いたね」
「ドゥー!」
窓に方膝を立てて座っていたエディスが、入ってきた人物を睨むようにして見る。
「あの時に歌っていた曲だね」
その言葉を聞いて、エディスはため息を吐く。
「ああ、そうだな」
「それは・・誰に向かって歌っていたんだい?」
「さあ。誰なんだろうな」
薄汚れた服を着た、この世の者とは思えない程美しい少年。
その少年が歌う曲は不思議な響きを持っていた。
「エディス、拾った俺にも分からないよ」
「分からなくていいさ。・・そう、誰にも・・!」
どこからか、落ちて着た黒い羽がエディスの手を掠めた。
「本当に、君は誰なんだい?」
ただ、少年は微笑むだけだった。


[*前へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!