碧螺春の宴
その手の温かみ
「だあぁー・・・! 離しやがれ!! 遅刻するだろー」
屋敷内にとても美しいテノールの声が響いている。
「だってエディーまた仕事だろ!? 今度いつ帰って来るのか分からないじゃん!」
「今日は絶対帰って来るから!! だから離せ! なっ?」
「この前もそう言ってたくせに帰って来なかったじゃん!」
子供のように駄々をこねているのは背が馬鹿でかい男。
揉み上げだけが長い深緑の髪。
時々金色に光る黄色の瞳。
その青年の名はギール。
「本当に帰ってくるって!!」
「・・・・・・・・・帰って来なかったら、血吸うからね!」
「・・・・・・・・・・・あ、あぁ」
実はその正体はヴァンパイアだったりする。
「じゃぁ、行くからな!!」
そう言いながらギールの腕の中から顔を真っ赤にして逃げようとしているのはギールよりかなり背の小さな少年だ。
しなやかな銀髪を頭に頂き、卵形の小さな頭にはほっそりとした弓なりの眉と最高級のダイヤモンドの事を表す蒼氷色の二つの瞳、華奢なラインを描いた鼻梁に薔薇の花びらを思わせるような唇が、絶妙な配置で収まっている。
すべすべとしたなめらかな頬は濃厚なミルク色で、血を透かした耳たぶは紅珊瑚を刻んで作ったようだ。
その超絶美人はエディス・ディスパニ・エンパイア。
数年前にギールが目をつけた人間であり、半ヴァンパイアにしてしまった少年である。
しかし、彼は危険な事に軍で若干16歳の身で准将をしている。
エディスはその真実を知った時ギールを殺そうとした。
しかしやはり殺せなく・・今は99%は愛、1%は殺意で、ギールを思っている。
「気をつけてな?」
「ああ!!」
ふわっと微笑み、エディスは自分の屋敷から出かけて行った。
「エディー、これ超特急でよろしくー」
「ミシアッ! てめぇ何でこんなとこに!?」
W.M.A『黒杯の軍』本部司令館に入ったとたんこれまた背のでかい男・・・オヤジに出迎えられた。
漆黒の髪にダークグリーンの瞳。
「だーってメルサンが『少将! お仕事してください!!』って怖〜いんだもんっ」
「うるせえ仕事しろ。いいオヤジが猫なで声出すんじゃねーよ、気色悪い!」
そう・・・実はこの軍の少将である。
「何だよ今日は別に何もしてないからいーだろー?」
「したら殺すぞ」
エディスはカチャっと黒光りする人殺しの武器を恐れ多い事に少将の額に当てた。
「ええーっ! エディスちゃんったらひっどーい!!!」
「でもセクハラはいけないと思うなぁー・・・僕」
「ホンマや、そりゃアカンで」
すると少しばかり離れたところにいた人物からいきなり話しかけられた。
エディスよりも年が幼い少年が二人立っていた。
エドワード・ディスパニ・エンパイアとルシリア・メイリアーディア。
共にやはり軍人である。
「兄さん!」
「ぎゃっ!」
少しエディスより背が高く、濃い金髪と藍色の瞳の少年がエドワード。
エディスの義理の弟である。
「随分今日も遅かったんやなぁ。またアレかいな?」
「あぁ。アレだ・・・」
前髪の一部のみが白髪で他は茶髪、海色の瞳なのがルシリア。
「ドゥルースさんが心配しとりましたで」
「ドゥーが・・? 分かった、後で顔出しに行くよ」
その人物の名を出されるとどうにも弱いエディスはこっくりとうなづいた。
(そろそろギールの奴しめよっかって)
しかしエディスの思考とはまったく正反対の事を心配している事を当人は知らない。
「じゃ、そろそろ俺自分の執務室に行くから」
そう言ってその場から去ろうとしたエディスにいきなり抱きついた人物がいた。
「エディー」
それすらで人を魅了出来てしまう少し低めの声。
「・・・ドゥー!」
ばっと声だけで人物認識をしたエディスは前に向きかえりその人物に抱きついた。
「うおっと・・・おはよう」
エディスを抱きとめ、にこにこと微笑みながら頭を撫でる青年。
肩より少し長い夕焼け色の髪と瞳。
ドゥルース・フィンティア。
エディスが幼い時奴隷市場にて売りさばかれようとした時助けてくれた大切な人―一応、主人となっているが今はギールに無期限で貸し出し中・・となっている。
「どした?」
「ううん、何でもない」
今では兄のような存在となっているドゥルースだが・・少々仇であるギールにエディスをとられた事が気に食わないらしい。
「じゃ、仕事頑張れよ」
ちゅ、と頬にキスをして去っていく。
こういう意地悪も・・・ご愛嬌。
(俺・・・こいつらに関わってるから帰りが遅くなるんじゃないだろうか・・・・)
周りの人間が自分に絡みまくるのが仕事の邪魔になっているのだと薄々気付いてきたエディスははぁぁぁ・・・・・・・とため息をついた。
しかし軍のアイドル的存在であるエディスに絡むなというのはいささか酷であるのだけども。
「ただいま」
ごくごく小さい声でギールは呟いた。
人殺し稼業のほうを終わらせて帰って来た。
腕時計は既に3時を過ぎている。
靴を見るがエディスの靴は無い。
「・・・・・・・・・・・・・・」
そっと悲しげな微笑をしてギールは2階へ上がる階段に向って進んでいった。
階段の真ん中まで来た辺りでかちゃっという扉が開く音がした気がしてギールは階段を下りていった。
廊下を小走りで行くといきなり何かにぶつかった。
どたっという音と共にぶつかったものが倒れた。
その時闇の中銀に光るものが見えた。
「ご・・っ、ゴメンエディー! 大丈夫!?」
急いでしゃがみ助け起こす。
「ギール・・・っ」
最愛の恋人を心配していると急に抱きつかれギールは目を丸くした。
「大丈夫・・・?」
もう一度優しく聞くとエディスはこくっと頷いた。
「帰りにヴァンパイアにでも遭遇した?」
自分のおかげで自らもヴァンパイアなのにヴァンパイアが大の苦手のエディスはこくっと頷いた。
「・・・・大丈夫だよ、俺・・・いるからさ」
「うん」
大丈夫 大丈夫
仲間がいる
皆がいる
だから 大丈夫
きっとどんな事でも乗り越えられる
何より この手を握ってくれる人がいてくれたら―
BL系オリキャラ同盟での企画「人気の萌えキャラを極めよう」に参加した際の作品です。
お題が「軍人」だったので・・・。
これはうちのサイトでお題で連載中の「僕らは此処にいた」の日常話です。
しかしイマイチ書きたかったことが書き切れてない・・・!!
もっと軍人らしい話(いつも出張ってくる無駄な戦闘シーンがない?)を書きたかったのに何故こんなイチャ話ぎみになってしまったのか自分自身不思議です・・・。
此処まで読んでくださって有り難う御座いました!
そしてお目汚し大変すみませんでした。
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