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木柵鉄観音の宴
◆Good-bye my favorite friend・前
  僕には、ずっと ずっと大好きな人がいた
その気持ちを打ち明けようなんて思ったことも・・なかったけど

「おい春蘭しゅんらん。」
いきなり目の前で手を振られ覚醒させられる。
「何? 折角旅立てそうなトコだったのにさ。」
むっとして言うと頭をコツンと小突かれた。
「旅立つなバカ。」
「別にいーじゃん。・・で?僕に何の用さ。」
首を小さくかしげると長い黒髪がパサリと机に落ちた。
「相談したい事があるんだけど。」
「・・・・・・・何?」
だって 僕は友達だから。
怯えとかそんなんじゃない。
たとえ告白とかしてふられても友達でい続けられる自信はある。
だけど、きっとしちゃいけないんだ。
何だかそんな気がするんだ。
この気持ちは封印しておかなきゃいけない。
そんな気が・・。

「竹奈たけなさんってさ・・松野まつの君と仲良いよね?」
「うん、母さん達が仲良いから。家、隣だしさ。」
竹奈 春蘭、16歳。中性的な、人を魅了する顔立ちに腰までのつややかな長い黒髪が印象的な少女。
彼女には幼い頃から大好きな人がいた。
それが幼なじみの松野 了りょう。
淡い茶色に染められた短い髪に爽やかな笑顔が印象的なクラスの中心的存在の少年。
「じゃ、じゃさ・・付き合ってたり・・する?」
「あ―・・ありえない、ありえない。ずっと一緒だったから兄弟みたいなもんだしさ。」
「ほんとっ!?」
「本当。」
ぱあっと嬉しそうな笑顔を春蘭に向けるのは同じクラスの梅宮うめみや 五月さつきだ。
くるっとした大きめの瞳とゆるくウエーブがかった黒髪が印象的な可愛らしい少女である。
「・・ねえ、そろそろチャイム鳴るからもういいかな。」
「あ、うん! ありがとねっ。」
にこっと可愛らしい微笑みが春蘭の心には痛かった。
一人さっさと廊下に出るとまだ更衣室でお喋りする声が聞こえてくる。
「ずっと一緒だってー。いいなぁ、うらやましーいっ!」
「竹奈さんと代わりたぁ〜いっ!」
黄色い声で交わされる会話をぼんやりと聞きながら窓の外を見上げる。
するとこんっと頭を小突かれ、春蘭は自分の右隣に目線をやった。
「お前・・女のくせに着替えんの早いんだよ。今終わったとこだからさ、入れよ。」
どうやらずっと春蘭が男子の着替えの終了を待っていたのだと勘違いしたらしい了が言いに来たらしい。
「ほら、行こうぜ。」
「・・・・うん。」
ぴょんっと了の隣に跳んだ春蘭は一緒に歩いて行く。
一教室間だけの本当に短い二人だけの時間。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
教室前まで来、春蘭はくるりと更衣室の方を振り返る。
「入らないのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・入るよ。」
何かを振り切るかのように頭を軽く振ってから教室に入った。

僕は、貴方が羨ましいよ

「だーかーらぁっ! その告白が出来ないんだよ!!」
「何で。頑張れよ。」
もぐもぐと春蘭の作った夕飯を食べながら二人は話し合う。
「だって梅宮さんモテるしさ・・」
「だ〜いじょうぶだって。クラス一の人気者が何を言うか。」
びっと箸の先を向けると『こっち向けんな』というツッコミが返って来る。
「大丈夫、了はいい奴だし。女子もきゃーきゃー言ってるし。」
「どうかなぁ・・いや、そうだよな! よっしゃぁ! いっちょ頑張ってみっか!!」
椅子に片足を乗せ一人ガッツポーズをとっている了を無視しタライに食器を入れる春蘭。
「じゃあ後よろしくなー。」
スタスタと玄関まで歩いてく春蘭の背中に慌てた了の声がかかる。
「送ってこうかー?」
「別にいい、隣だし。」
振り返らずに手を横にふりつつ靴をはく。
「また明日。」
「・・・うん。」
扉を閉め、家に向けて足を進めだした。
「・・・・・・・・・・・寒。」
春の生暖かい夜風が体に纏わり付いてくる。
「寒いよ、了。」

僕は君が好き
だけど君には好きな人がいる
だから、僕は君の友達でいようと決めたんだ
諦めじゃない
ただ・・君の事が大切だから

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あきゅろす。
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