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木柵鉄観音の宴
空ろな世界は優しさを語らない
  少しの間だけでいいんです
僕を人間にしてください―・・

「おっはよー!」
「おはよー。ねー、昨日のラブ★ノリ見たぁ〜?」
「もち見た!あれマジ泣くしー!」
子供が勉学を学ぶところ―学校
私は、杉本すぎもと 暁あかつきは、そこが苦手。
だって 私は独りだから。

「初めまして、月森つきもり 卯月うづきです。よろしく!」
そう明るく自己紹介したのは綺麗な黒髪の少年だった。
(随分変な時期に転校してきたのね・・・。)
「席は―・・・そうだな、杉本の隣が空いてるな。」
(えぇっ!?)
「杉本は真面目で大人しい生徒だから、色々世話を見てもらってくれ。」
「はい。」
(嘘・・・っ!)
「杉本、あとで月森に学校案内してやってくれ!」
そう言い残して先生は去っていった。
じっと男の子から見られる。
もちろん、周りからも。
「杉本っさん! これからよろしくね!」
「・・・・・・・・・はい。」

「ここが職員室で、その隣が進路室。」
「ふんふん。その隣は?」
「そこは生徒指導室・・・・。」
「・・・・・・・。」
なにやら嫌な思い出があるのか卯月君(是非名前で呼んでくれと言われてしまった)は嫌そうな顔をした。
「次・・・・・。」
「うん、いこっか。」

「今日は有り難う。よく分かった!」
「う、うん・・・・・。」
「じゃあ、バイバイね!」
「・・・・・・・・・・・・さ、さようなら。」
バイバイ?
うん、バイバイ
「また明日ねー!!」
ぶんぶんと手を振り回している卯月君を見ながら私はぼぅっと考えた。
明日・・明日も話してくれるのかと。

「ただいま・・・・・。」
ぽそりとつぶやく。
誰もいないのに。
しかし・・今日はいた。
空間の奥を見るとそこには女の人が立っていた。
「お母さん・・・。」
「あぁ・・あんた帰ったの? 悪いけど私もう行くから。」
そう言って隣を通り過ぎてしまう。
「あ・・・・。」
つい服の袖を掴んでしまう。
「なあに? 私急いでいるのよ、話して頂戴!」
パンッと手をはじかれた。
私はただはじかれた手をもう片方の手を握り締めるだけ―

部屋―それは私の安全空間
「ふぅ・・・。」
少し甘めに淹れたカフェ・コン・レーチェ。
静かに耳に入るお気に入りのバロック長の曲。
そして手には可愛い女の子向けの雑貨グッズがたくさん載っている本。
ふと部屋に目をやる。
「・・・・・・・・・あれ?」
そして本棚の2番目の真ん中にぽっかりと空間が空いていることに気が付く。
「此処・・・どうしてこんなに空いているのかしら・・・?」
何かが・・とても大切な何かがあった―・・?
「気のせい・・・かしら?」


「つーき!一緒にご飯食べよ!」
「うん。」
3日後、明るくて優しい彼は見事に暁の心の奥の扉を開けていた。
「ちょっと寒いけど此処で食べるのが一番幸せー。」
「うん、此処の中庭・・綺麗だもんね。」
春夏秋冬、季節ごとに咲く花の種類が変わる。
「それもあるけど―・・・、ほら 此処だと寒いじゃない?だからつきと2人きりになれるのが嬉しいんだよ。」
にっこり天使スマイルで軽―く言ってくれる。
私が言ってほしい、嬉しくなる、魔法の言葉。
「私も。」
「え?」
「ううん、何でもないよっ。」
私・・・も
私も卯月君と一緒にいられる事、嬉しいよ
「ね、つき。」
「何?」
「今日、一緒に帰ろう?」
「うん、いいよ。」


「ねえ、つき・・・・。」
「?」
「今から話す事。忘れてもいいよ。」
「・・・?・・うん。」
(何だろう・・・・。)
「俺さ・・っ、人間じゃないんだ。」
「え・・?」
「4日間だけ神様にお願いをして人間にしてもらったんだ。・・・ねえ、つき。俺の事分かる?」
泣きそうな微笑
「あなた・・・は・・・。」
一つだけ空いた変な空間
どうしてかそこに新しく何かを置く気にはならなかった。
「あ・・・っ!」
そう
「お母さん・・・から、もらった・・・」
最初で最後の誕生日プレゼント。
大切な 大切な
もうボロボロになってしまった、白くて手触りのいい・・・
「犬の縫い包み・・・?」
「そう。俺はつきのために人間になったんだ。」
その微笑は作り物には見えないのに・・。
「つきのために、4日間だけ。だけど、その代わりにこの体は消える。
でもねつき、哀しまなくてもいいんだ。
自信を持ってよ、つき。つきならきっと出来るんだから。
友達だって、お母さんだって。どんな事でも。
少しだけ、少しだけ勇気を出せばいいんだ。
「卯月君・・・!」
とんっと卯月の胸にすがりつく。
そうよ
そこにいたのよ
君はずっと前から そこにいた
どうして私は気付かなかったの?
「さよなら・・・暁―・・。」
そこに君はいたのに―・・・・っ!


教室のドア

家の玄関のドア

そこから始まったよ?

新しい私の物語

でも、ねえ・・卯月君?
まだ私、残してるよ
私の大好きな貴方がいた証拠を―・・・

君はそこにいたのに
気がつけない私でゴメンね・・


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あきゅろす。
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