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木柵鉄観音の宴
真紅の月は涙を語らない
  君の名前は何ですか?
春の和かさを幸せに想う名ですか?
夏の明るさを楽しく想う名ですか?
秋の静けさを優しく想う名ですか?
冬の切なさを柔らかく想う名ですか?
それとも―
夜に魅入られた真紅の月を慰める名ですか―?

「また・・食べないの?」
「・・・・・食べたく、ないの。」
「じゃぁ・・・お話、してよう?」
にこりと微笑みかける。
しかし微笑みかけている相手はくすりとも表情を変えてくれない。
この少女は、清さや。
真紅の衣を身につけ、まるで夜のような長い黒髪と瞳。
「このまま・・・夜が明けねばよいのに・・・!」
「清・・・。」
少年の名は鴇つき。
清よりいくぶんか年若い彼は清の弟のような存在。
「朝など来なければよいのに・・・!」
「清・・っ、そんな事言わないで・・・。」
日照りのために作物が育たない。
清は新しい生贄だった。
この地に長く住まう竜神の―
「僕が・・僕が君を守るから・・!」
ぎゅっと自分より少しばかり背の高い少女を抱きしめる。
周りからはまるで抱き付いているみたいに見えるだろう。
「一緒に・・。」
「止めて!」
ぱしっと押しのけられる。
体がふらついてしりもちをついてしまった。
「清・・。」
「そういう事は、もっと大人になってからよ、鴇。」
うっすらと清の目なじりに涙が溜まる。
「私は。」
震える声
「私は・・・。」
強く真紅の衣を握り締める手
「私は・・っ!」
強い意思を秘めた瞳
「私は、誰も巻き込ませないわ。」
そっと清は鴇の頬に手を置いた。
「得に、貴方はね・・・。」


「竜神様がお待ちに御座います・・・。」
「はい。」
ねぇ、鴇
私のこの灯
最後まで目を背けずに、見ていてくれるかしら―?

「清・・・。」
ねぇ、清
僕は君を守りたかったんだよ・・・
―鴇
「え・・・清!?」
―鴇
ふわふわとこちらに向って飛んでくる青い光の玉。
「・・・清・・・っ!」

「君は、僕が守るよ。」
魂だけは、永遠に僕のもの―・・・


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あきゅろす。
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