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菊花の宴
しくしく空
「くっれはちゃーん!」
「何だよ」
図書館に入った瞬間、ぱあっと花が見える。
ふわっとした目に優しい薄桃色の少女と、分厚い本を手にした薄水色の少年。
どちらも撫で回したくなるほどの可愛さだ。
「何読んでるの?」
「何でもいいだろう」
ふいっと体ごと背けられる。
資料を読むタイプの子ではないから、やっぱり何かの物語だろう。
話しかけなかったら、まるで空気のように、いない存在として扱われてしまう。
時々、膝に頭を乗せている沙紗の頭を撫でているのが、凄く羨ましい。
その沙紗はすやすやと気持ち良さそうに寝ている。羨ましい、けど、可愛い!
「綺麗だな‥」
すーっと入ってくる風に揺らされる白色がかった、水色の髪。
あ、睫毛長いなんて考えていたら、その睫毛が震えた。
「あれ?」
じっと、よく見ていると、少し、ほんの少し、じんわりと涙が浮いていた。
「く、れはちゃん…?」
そっと、その肩に手を置くと、肩がふるえた。
「暮葉ちゃん、どうしたの?」
「どっ、どうもしていない! 勝手に己に触るな!」
ばちんと猫パンチ。微妙に痛い。
「感動したの?」
苦笑して聞いたら、思いっきり、睨まれた。
さわさわと風が泣く。
君が空を見る。遠く、遠く広がる空を。
「なあ、海ってどんな色だったっけ」
顔を見ていなかったら、きっと分からなかった。それくらいの小さな声だった。
「空の色だよ」
羽を失くした幸福天使。
「…何で? 空と海は違うのに、どうして同じ空の色なんだ?」
俺達はもう一人の、この子の羽までをも、もぎ取ろうとしているのかな?
「空が、泣くからだよ」
だとしたら、今だけでも。信じていて。
君を守りたいと思っている奴もいるんだということを―
「…空の泣き虫」

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あきゅろす。
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