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それは想定外 4

こんなにも甘い声で、こんなにも優しい口調で、それなのに、無遠慮に放たれる言葉は両国をひどく混乱させる。

「月島が一目でわかるように、印をつけておこう」

都庁の唇は両国の耳の後ろに吸いついた。

「は…やめ、ろっ!!!」

いくら叫んでみても、都庁がそれを聞くはずもない。きつく吸いつかれたところはじんじんと熱を帯びたように疼く。

「私の指と月島の指、私の唇と月島の唇、どちらもお前に与えるものはさほど変わらない、だろう?」
「ちがうんだよ…」
「どこが」
「り、リーダーは…っ、リーダーには気持ちがねえだろ…」
「気持ち?」
「俺のこと、なんとも思ってねえくせにっ…こういうことすんな!」

両国は渾身の力で都庁を振り払った。

「っ、つう…」

痛みに唇を手の甲で擦ると、赤い線がにじむ。今の衝撃で唇を歯で切ってしまったらしい。傷をなぞりながらぺろりと舐め、都庁は両国の後姿をじっと見ていた。

「いくらリーダーでも…おふざけもここまで来るとさすがに許さねえぞ」

背を丸め、肩越しにこちらを睨みつけてくるその姿には、さっきまでの誘いこむような色のかわりに、ただひたすら怒りだけがある。

「なにがいざというときだ!こんなことして…おもしれぇかよ!」
「おもしろくてしているのではない…想定される危機的状況のシミュレーションだ」
「それがふざけてるっつうんだろ!話になんねえ!」

立ちはだかる都庁の横を抜け、逃げるように両国はその場を走り去った。すれ違いざまにぶつかった肩に鈍痛が走る。なんとなく手を添えて肩を押さえてみるが、痛みを覚えているのは、肩ではないことに気がついた。

「戻りました。ん?都庁さんおひとりですか?」
「あ、ああ…」

しばし呆然と突っ立ていた都庁は、後ろから聞こえた声に我に返った。


20100413


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