それは想定外 1
閑散とした車内にて、都庁はひとり掃除をしていた。視線にある網棚の汚れが目についてしまい、どうにも見過ごすことが出来なかったからだ。
「まったく…いやな性分だ」
文句を言いながらも、都庁は網棚を雑巾でごしごしと拭いていた。
と、その光景を偶然通りかかった両国が見つけた。
「おっ、リーダー!何してんでぃ」
「両国か…見ればわかるだろ、掃除だ」
「網棚の掃除たぁ、さすがリーダーだな」
「何を言うか、見てるんならお前も手伝え」
「へ?」
余っている雑巾をポンと手渡され、両国も無理やり掃除に参加することになった。
「とくがわがいつも寝そべっているからな、意外と汚れているだろう」
「そうだな。しっかし、よくこんなとこ掃除する気になったよな」
「目線の高さだからな」
188cmの視界だと、網棚も軽く見渡せるのだろう。両国は、都庁が自分より背が高いことを思い出し、掃除する手を止め、まじまじと都庁を眺める。
「な、なんだ?」
「いや、リーダー背ぇたっけえなー」
「今さらだな」
「それに、細っせえな!ちゃんと食ってんのか?」
「心配には及ばん」
「月島もそうだけどよぉ、んなに細っこくちゃあ、力が出ねえんじゃねえか?」
「別に…これといって力を出さなければならんこともないだろう?」
「んなことねえぜ!いざというときに困るだろうが!」
「いざというとき…?」
「そうだぜ!」
こんな有閑電車で掃除をしているような自分たちの身に、いつそんな危機的状況が訪れるのかは定かでないが、例えばどんなときのことを言うのか、都庁は頭の中でシュミレーションを試みた。そしてひとつ、事例を想いついた。
20100411
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