おさんぽはどちらまで 1
「ねえ…どうしたのさ?具合悪いの?」
汐留がおろおろしながら心配しているのは、とくがわのこと。
ここ何日か、とくがわの様子がおかしいのだ。いつもは愛嬌をふりまくこともなくマイペースなとくがわが、最近は何かを探すようにうろうろしたり、かと思えば、ごはんを目の前にしても手をつけないでどこかに行ってしまったり。かと思えば、突然吠えだしたりと、とにかく、いつもと様子がおかしい。
今は今で、汐留が声をかけたのに、散歩に行く気がないらしい。いつもなら楽しそうにぴょんぴょんと走って飛び出していくのに、一体どうしたというのか。
「とくがわってば」
「…」
ぐったりと伏せっているその様子に、汐留はとくがわが病気ではないかとひとり気をもんでいた。床に伏せるとくがわの顔を覗くように、汐留が一緒に床に這っていると、後ろから声がする。
「ん?何やってんだ?」
声の主は、新宿。
「新宿さぁん…とくがわが…」
「とくがわ?」
「散歩に連れていくっていうのに、全然動かないんだよ」
とくがわを心配そうに見る汐留の様子に、新宿もかがんでその様子を見ようとしたそのとき。
「わん!」
いきなりとくがわは吠え声を上げた。そしてすくと立ち上がると、新宿のズボンの裾をぐいぐいと口で引っ張る。
「あれっ、とくがわ…?」
「どうしたってんだ」
必死にズボンの裾を引っ張りながら、とくがわはドアのほうに向かおうとしている。
「外に行きたいのか?」
とくがわの行動をそう理解した新宿は、自分の裾を咬むとくがわをひょいと抱きあげた。
「そうかそうか、俺と散歩に行きたいのか」
「わん!」
さっきとはうって変わって元気そうなその様子に、汐留はきょとんとしている。
「えー?なんで?」
「お前より俺のほうがいいってことだよ、なあ?」
「そんなことないっ!ねえ、とくがわ?」
汐留の言葉にとくがわはぷいと首を振ってそっぽを向いた。
「あっ、こいつ!!!」
「またえらく嫌われたもんだな、おまえも」
「ええっ!?僕なんていっつも散歩に連れてってるのに、なんで何にもしない新宿さんが好かれるのさ」
「犬は相手に上下をつけるっていうからな。お前はとくがわより下ってことなんだろ」
「ひどいよっ!とくがわの薄情者っ!」
「そう怒るなって。こいつの今の気分なんだろ?」
カリカリする汐留をなだめながら、新宿はドアへと向かう。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「うん。行ってらっしゃーい」
どこか腑に落ちない様子で、汐留は新宿ととくがわを見送った。
20100302
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