ウワサの真相 8
両国はいそいそとその場を去ろうと立ち上がると、つんと上着がつっぱる。引っ張られるほうを見ると、月島が両国の上着をきゅっとつまんでいた。
「両国さん、どちらへ?」
まだ話は終わっていないという顔で、月島はじっと両国を見つめてくる。
「まだなんかあんのか」
「ふふ。あたりまえでしょう」
両国を座席へ引き戻すと、月島は壁際に詰め寄り、顔をずいっと近づけた。
「両国さんが私のために頑張ってくれたと聞いたんですから、ねえ」
「は?」
噂の真相にはたどりついた。
誤解も解けた。
しかし月島は、両国に新たな用事が出来たらしい。
「それで、その手練手管というものは、いつご披露いただけるのかと思いまして」
「いつ…って?」
「今すぐでも、私は構いませんよ」
「はあ!?」
戸惑う両国を尻目に、月島はゆっくりと唇を両国のそれに近づけていく。
「ちょ、ここで…?」
「いいじゃないですか。都庁さんにもお許しいただいてきましたから」
「話するって言っただけだろ?こんなんまで…」
両国の言葉をかき消すように、月島の唇が重なった。軽く、緩く、何度も。
「往生際が悪いですよ。両国さんのせいなのに…」
「なんで俺のせい!?」
「わざわざ新宿さんを巻き込んでまで、私を焚きつけるようなことをしたんですから」
「…確かに」
的を得た月島の言葉に、両国は素直にうなづいた。
そんなつもりはなかったが、結果としては新宿を当て馬にするようなことになってしまった。新宿には悪いことをしたと思うが、それくらいしないと動かない月島はやっぱり情けないやつだ…とも、そしてそれを憎めない自分にも気づいている。だから、反論はない。
「つか、それならおめーも共犯だ」
「どうして?」
「俺にこんなことさせたのは、誰だったのかってことよ」
「確かに…そうですね」
「だろ?」
くすくすと笑いながら、また影が重なった。不意に、両国の腕が月島の首に回る。
「いいんですか?ここで…」
「リーダーか?」
「というより、両国さんが」
「俺は…構やしねえよ」
かくして、お二方はようやっと微妙な距離感を縮められた、と。
後で都庁にお説教を食らったのは言うまでもない話。
おわり
20100201
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