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12月14日 2


「吉良邸、ですね」
「やっぱりここがクライマックスだよな、うん」

勝手知ったる自分の地元なのに、今までだってさんざん来ているのに…いつ来てもしみじみと、そして延々と、両国は吉良邸跡地前にたたずみ、そして飽きずに眺めている。

「…」

言葉も発さずにいる両国を見て、さすがの月島もぎょっとした。

「ちょ…と、両国さん?」
「ん?」

この往来のど真ん中で、両国はぼろぼろと泣いていたのである。

「どうしたんです?」
「なにが」
「なにがって…」
「忠臣蔵ってのはなあ!涙なしには語れねえんだよ。いいか?この場所はな…」

両国からはまだまだ思い入れが止まることなく湧いてくるらしい。今日一日で、おそらく一生分の忠臣蔵うんちくを聞かされたと思っているのに、さすがの月島も、少々うんざりしていた。

「りょ、両国さん、とりあえず、涙を拭きませんか」
「お、おう…悪ぃな」

月島の差し出したハンカチを受け取ると、両国はごしごしと顔を拭き、ずびっと鼻までかんだ。
「ちゃんときれいにして返すわ」
「いえ、持っていていただいてかまいませんよ」
「そうかい。ん、でな?この場所はな…」

話を逸らせるつもりだったのに、両国はまたうんちくを語ろうとし始めた。

「両国さん!」
「ん?…!」

とっさに、月島は両国の口を塞いだ。
自分の口で。

「ご、ごめんなさい」
「…」
「あなたの涙に、欲情してしまいました…」

月島は、この行動に自分でおどろいた。
そして、自分以上に驚いている呆然とする両国にもっともらしいフォローをするつもりだったのだが、思いつきで言ったそれは、ただの変態発言になった。

「…帰る」
「りょっ、両国さんっ」
「ちょっと、離れて歩いてくんねえかな…」

あからさまに怪訝な顔でこちらを睨む両国に、月島は得意の笑顔で返す。

「そんな顔しないでくださいよ。だって、仕方ないじゃないですか。忠臣蔵を語るあなたもすてきですけれど、泣き顔も魅力的だってことなんですから」
「ふざけんな、変態!俺の話に付き合えねえってんなら、最初っからそう言え!!」
「待ってくださいよ、両国さん」

怒りながらすたすたと先を行く両国の後ろを、月島は小走りに追った。

「一人で帰れよ!」
「そうは言いましても、戻る先は一緒ですし、ね?」

両国に追い付いた月島は、一歩分くらいの間隔を開けて並んで歩く。

「両国さん?」
「あん?」
「怒って、ますか?」
「ああ、そりゃ怒ってるとも」
「ごめんなさい…どうしたら、許してもらえますか?」
「さあね」
「何でもしますから、どうか機嫌を直してはいただけませんか」
「…」
「お願いします」
「なんでも、つったな?」
「はい!私にできることなら、何でも!」

両国は、少し考えてから、ニヤリとつぶやいた。

「付き合え」
「え?」
「だからな、また付き合えっつってんだ」
「どちらにですか?」
「忠臣蔵巡り」
「ちゅう、しん、ぐら…ですか?」
「何でもするんじゃねえのか?」
「…ええ、もちろん!!」
「よし!決まりな!じゃあ、とりあえず明日だ!」
「あ、明日ですか」
「善は急げってことだ!」
「そうですね」
「なーに、明日のためにも、帰ったら俺が忠臣蔵のことをばっちり仕込んでやるから。楽しみにしとけよ!ははっ!」
「はい!明日も楽しみですね!よろしくお願いします」

満面の笑みを浮かべる両国に、月島も満面の笑みで返した。
両国とデートができるなら、忠臣蔵漬けも悪くない、そう思える月島であった。


20091214




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あきゅろす。
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