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さきちゃんととくがわ 2

「独り言に付き合わせて悪かったな。お前はここにいたいんだろう?私が場所を変えるとするか」
「待て」

都庁がシートから立ち上がろうとしたとき、隣から、呼びとめる声がした。その声にはっとした都庁が隣を見ると、そこには、見知らぬ青年が座っていた。
黒いジャケット、黒いインナー、真っ黒な長髪に真っ黒な瞳。そして肌が透けるように白い。
いきなりのことに、都庁は思わず身を退いた。

「…だ、誰だ?」
「待て、と言っている」

長髪の青年はうろたえる様子もなく、じっと都庁を見つめている。

「新宿がどんなやつか知りたいって?くだらねーなあ、ほんっと!」
「…?」
「あいつは女の尻を追っかけてるのが楽しいようなやつだろ?お前の知ってるとおりだ。まーったく、なんであんなのに俺の裏鬼門預けてんだ?意味がわからん」
「俺の裏鬼門…って、お前…とくがわ、か?」
「そうだ、とくがわだ。見りゃわかるだろ」
「そうだ、って…わかるか!!なんだその格好!?犬じゃなくなってるぞ!?」
「別にいいだろ?お前らだって駅のくせに人の見た目してんじゃねーか」
「そ、それはそうだが…」
「ふん。だいたいな、お前のさっきの話。ああいうのは悩みっつんじゃねーよ」
「そ…私は真剣に考えて…っ」
「なんて言うか教えてやろうか?ああいうのはな、のろけっつうんだよ、の・ろ・け!聞かされるほうの身にもなれっての。あーーーー!うっとおしい!気持ち悪くて寒気がするわ」
「のろけ…気持ち悪い…」
「そんなこと考えて、なんて返事がほしいんだよ、え?言ってみろ」
「う…それは…」
「ほらな?どうせ答えなんてどっちでもいいんだろ?それがのろけだって言ってんだ」
「のろけてなどは…ない!」
「あー、そうかいそうかい。ホント、盲目ってのはいやだね。んなくだらねえことで頭使ってるから、広るんだよ。いいかげん気づけ!」
「ひ、広がってない!!!」



そのころ。
たまたま隣の車両に乗り込んできたのは新宿だった。ブラザーズに呼び出され、昼間っから買い物に付き合わされていたのだ。やれやれといった顔で戻ってきた新宿を迎えたのは、隣の車両から聞こえるわめき声。
大騒ぎなどはさほど気にもならないのだが、声のするほうをガラス越しに見やると、妙なものがいるではないか。
首を突っ込んでもろくなことがないとは分かっていたが、新宿はわめき声の中へと入っていった。

「よう、お二人さん。ずいぶんとやかましいぜ?向こうまで声が筒抜けだ」
「し、新宿…」
「あ?なんだお前、もう帰ってたのか」
「ああ、今しがたね。大声でわめいてるなんて、面倒だから放っておきたかったんだけど」
「じゃあハマってくんな」
「そういうわけにもいかないでしょ。お前がその姿で人前にいるなんて、珍しいこともあるもんだと思ってね」
「そうなのか?」
「いろいろあんだよ」

とくがわの姿を見ても動じないどころか、むしろ普通に話している新宿の態度に、都庁は驚きを隠せない。展開についていけない都庁を置いて、とくがわと新宿は話を続けた。


20100117
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あきゅろす。
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