さきちゃんととくがわ 1
ミラクルトレインに住まう犬、とくがわ。
犬種:豆柴
性別:オス
駅でもなければ、人でもない。が、彼にも、駅たちと同様に人の形を模した姿がある。その姿を人前で現すことはめったにないのだが…。
―
誰もいない車内。喧騒を逃れて一匹、とくがわはシートの上に寝そべっていた。
うるせーのがいないと、ほんとせいせいするな
ほどよい車内温度と揺れのなかまどろんでいると、こちらに近づく足音を耳がキャッチした。
だれだよ…?
じきに、足音の主が姿を現した。
「ふう…」
都庁は首をこきこきと鳴らしながらこちらに近づいてくる。そして、とくがわが伸びているすぐ隣に座った。
うわっ!隣とか、邪魔!
「ワン」
「ん?おまえ、いつの間に?」
「ワン!」
「お前のほうが先客だったのか」
そうだっつーの!
とくがわがうっとおしそうに吠えるまで、都庁はとくがわの存在に気が付いていなかったらしい。
「なんだ、私一人じゃないのか」
じゃあお前がどっか行けよ
どく気などさらさらないとくがわは、自分を見る都庁を一瞥すると、ぷいっとそっぽを向いて目を閉じた。
「そうか…まあ、いい…」
かわいらしい外見とは裏腹に、とくがわは駅たちに対して全く愛想がない。うざいだのなんだのと思っているくらいだから、彼らに対して振りまく愛想など持ち合わせていないと言ったところか。
さっさとどっかいってくんねーかな…
いつもどおり、うっとおしそうにしているのに、都庁はなかなか立ち去る様子がない。
「駅が悩んだりしても、いいものだろうか」
知るかよ
突然の都庁の言葉にも、とくがわは興味がない。
「私にも、まあ小さいことだが、悩みがあってな。なんというか、その、新宿がな…」
何を思ったか、都庁はとくがわに対して、自分の悩みを話し始めた。
いなくなるどころか、話し始めたよ、こいつ…
「私と新宿は、その…まあ、なんだ、いわゆる…そういう仲なんだが…」
うわー…聞いてねえし…
「新宿はあのとおり、外見も行動もチャラチャラしているし、一体何を考えているのか…私でもわからなくなることがあるのだ。いや、だからどうだということではない。ああいう態度、私にはないところだし、あの軽さに救われるときもあることはある。それに、ああ見えていいやつだしな。ただな、もうちょっと、私に対しての誠意を見せてほしいと思うこともあるのだが、それは私のわがままだろうか」
つか、知らねーし
「新宿はお前の守り人だったろう?なあ、お前から見て、あいつはどんなやつなんだ?って、聞いても、答えられるわけがないか…お前、犬だもんな」
…うざい
「お前がしゃべれれば、聞いてみたいと思ったんだが…私も何を考えているんだろうか…ははっ」
一人失笑する都庁があまりにもうっとおしくて、何か言い返してやりたいと、とくがわは思った。
2010117
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