ちょっと待て! 1
大江戸刑事の一件以来、新宿の様子がちょっとおかしい。
どうにも不機嫌なのだ。気にはなっているが、しかし直接聞くのもなんとなくためらっている。
なぜならば…
先日の大門との会話を新宿に聞かれていたことに、私は気づいていた。
その場で話を止めることもできたが、新宿との仲を大門に気づかれるのも避けたかった。しかし、大門からまさかあんなことを言われようとは…それも、新宿はすべて聞いていたはずだ。
どうすればいいものか。
やはり、ここははっきりさせたほうがいいはずだ、いいに決まっている。
新宿とはお隣さんでもあるわけだし、仕事上いつも顔を合わせるのに、いつまでもこんなモヤモヤした雰囲気では気持ちが悪い。
…
そう思ったのは、これで10回め。簡単なことなのに、どうしてか踏ん切りがつかない。
弁解したらしたで、新宿のいいように解釈されてしまうだろう。それはそれで気に食わない。まるで、自分から新宿のことが好きだと言いにいっているようなものなのだから…
―
9回も決意が鈍ったのだ。10回めはいいかげん心を決めて、私は新宿に話をつけることにした。
探しに行くと、新宿はすぐに見つかった。周りには誰もいない、というより、近寄れない雰囲気と言ったほうが正しいだろう。腕を組み、大股に広げた足の片方をカタカタと揺らし、見るからにいらついているのがわかる。優先席の壁寄りに一人で座る新宿の前に立ち、声をかけた。
「新宿」
「…さき?」
新宿は、私のことを、『さき』と呼ぶ。もちろん、人前でそう呼ぶことは私が禁止しているから、二人のときしかその名前は言わない、はず。
「あ、あのな…はっきり言っておくが、私と大門は何でもないぞ。誤解するなよ」
「…は?」
「だから、私と大門は、そういう関係ではないと言っている…!」
「…わかった」
「そうだ、わかればいいんだ、わかれば!」
話せばわかる、そう安堵したのもつかの間、新宿のわがままが始まった。
「じゃあ、証拠、見せて」
「しょ、しょうこ…?」
20091224
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