いつみくんの災難 6
「うわ、うわっ!」
着物の裾を踏み、前につんのめった。
「あぶない!」
そして、とっさに手を出した月島もろとも、畳の上に倒れこんでしまった。
「あだだだだ…すまねえ、月島」
月島の上に覆いかぶさってしまった両国は、そこからどこうとして身体を起こした。が、身動きが取れない。
「…あれ?おい、月島、手ぇどかせ」
「嫌です」
「起き上がれねえだろ」
月島は、自分の上にある両国の身体に腕を回している。
「ふざけてねえで、はやく離せ」
「ふざけてはいないですよ。ただ、その…離れがたいというか…」
「はぁ!?」
そこで、両国ははっとした。今、自分は女の身体になっていたということを思い出した。背中に回る月島の手に力がこもるのがわかる。
「おい、冗談だろ…?」
背中からどんどん下がっていく月島の手に、さすがの両国も危機感を覚えた。
「やめろ…っ」
「ごめんなさい、手が、止まらないです」
両国の精いっぱいの抵抗も、力の差にはかなわない。両国の身体は、たやすく月島の胸に引き寄せられてしまった。
「はじめっからこれが目的だったのかよ」
「そんなことは…まあ、多少は」
「てっ…め」
「仕方ないですよ。両国さんがかわいいのが悪いんです」
両国を抱きかかえたまま、月島はごろんと体勢を反転させた。今度は月島が両国の上にいる。
「もう逃げられないですね」
にこっとほほ笑むと、月島は両国の首筋に唇を落とした。
「こ、こら…」
「今さら」
「今さらって、いつもと違うだろうが!」
「そうですね…いつもより、甘いですね…」
月島の顔がずりずりと下がっていき、胸元の袷に手がかけられた。いくら抵抗しても、びくともしない月島の身体。女の力では振りほどけない。
万事休す!
そう思った瞬間、ふっと両国の身体が軽くなった。
「ぶっ!!!」
なんだか潰れたような悲鳴が聞こえ、さっきまで微動だにしなかった月島の身体がぶっとんでいるではないか。
「あれ?」
上体を起こすと、足先が見えた。着物の裾が短くなっている。帯の窮屈さもさっきとより増している。手をまじまじと眺めると、それは明らかに男のものだった。
「お!おお!元に戻った!!戻ったぜ月島!!」
「そ、う、ですか…」
壁にかかる時計を見ると、時間は12時を過ぎていた。
「よかった〜〜!元に戻れたんだな!よかったよかった!なあ、月島!!やっぱこっちのほうがしっくりくるよなー」
「良かったですね」
嬉しそうにはしゃぐ両国に、月島もニッコリと笑みを返した。
「ですが、両国さん」
「おう!なんでい!」
「私のほうは解決してないので、もうちょっとお付き合いしていただけませんか?」
「何に?」
「このままでは、帰れませんから、ね?」
「えっ…え、ええっ…!!!」
「元に戻った両国さんも、かわいらしいですよ」
無事に男の身体に戻れた両国だったが、結局、月島の攻め手からは逃れられないのであった。
20091220
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