いつみくんの災難 5
月島が両国の腕を取ると、タイミングよくプシューとドアが開いた。
「その姿にふさわしい格好に着替えましょう!」
「えっ…ちょ…おい!!」
「ではみなさん、いってきます」
両国の腕を引き、ドアの外に出ると、すぐにドアが閉じ、ミラクルトレインは発車した。
「あー…行っちゃった。月島さんずるーい!」
「ほんとだね」
「うまいことやりやがったな」
「…」
かくして、両国は月島と一日をともにすることとあいまった。
―
「やっぱり和服ですね」
「そ、そうかあ?」
「あなたに似合うと思ってご用意したのですが、お気に召しませんか?」
「そんなこたねーが」
和装自体に抵抗はないが、女物だとすこし勝手が違う。慣れない位置で結ばれる帯が少しだけ苦しいけど、ぶかぶかの制服を着ているよりはましだと思い、両国は月島の見立てた着物で過ごすことにした。
「着替えたんだから、もういいだろ?俺、本が読みてえんだけどよ」
「読書でしたら、私の隠れ家でされませんか?あそこにも、両国さんの本がいくらか置いてありますし」
「鬼平犯科帳はねえだろ?」
「ああ、ありますよ。先日から私も少しずつ読んでいるので」
「マジで!?さっすが月島!話がわかるなあ。じゃ、さっさと行こうぜ!」
月島の隠れ家的な部屋に着くやいなや、両国はいそいそと本棚をあさる。
「おおっ!なかなかな揃えじゃねえか!どれどれ〜?」
目当ての物を見つけると、両国は本当に読書をし始めた。
「やれやれ、本当にお好きなのですね」
黙々と読書をする両国に、月島のつぶやきは聞こえていないらしかった。物語に没頭しているようで、笑ったり顔をしかめたりしながらページをめくっている。月島も適当にその辺の本を手に取り、読みだした。二人だけの静かな時間が流れていく。
どれくらい経っただろうか、ふと、両国が本を置く気配がし、月島は顔を上げた。
「んーーーーー!読んだ読んだ!」
「読み終わりましたか?」
「読みてえ話んところまで行ったから、満足したぜ」
「それは良かった」
「熱中してたから、ずいぶん時間経ったよな」
「もう夜ですね。そろそろ戻りましょうか」
「んー、そうだなー」
両国が立ち上がろうとしたそのとき。
20091220
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