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なかよしこよし
●タイムアウト(慶政♀)
「ねえ、もっと…てよ…」
とても、甘くて、甘い。
心地よい刺激に抗えない。
目の前に霧がかかったように、何も見えない。
すぐそこにいるのが誰だか分からない。
誘う声が脳裏にこだまする。
あとは何も分からない。
ただ、甘くて、甘い。





目が覚めた。
ということは、今まで眠っていたということになるのか。
政宗は脳みそが半分寝て半分起きているような状態になっていた。

それにしても、ここはどこなのか、なぜここにいるのか、何をしていたのか、さっぱりわからない。
状況を把握しようと、ひとまず身体を起こした。するとなにか違和感を感じる。
おそるおそるかかっている肌掛けの中を見ると、…裸だった。

…自分はいったい何を?どうにも思い出せない。

見知らぬ天井。
見知らぬ部屋。
見知らぬ熱…

熱?

右側に気配を感じる。
気配のほうを見ると、何かがいるが、肌掛けをすっぽりかぶっていて、よく見えない。どうにかして顔を見たいが、覆いをめくるのに躊躇してそろそろと覗きこんでいると、突然腕を引っ張られた。

ちゅう

バランスを崩したところに唇がぶつかる。驚いてとっさに身体を引くと、けだるい顔が見えた。

「起きたの?政宗」

名残惜しそうに自分の唇をなめながら、甘ったるい声の主は寝ぼけ眼でこちらを見る。

「おはよ」
「け、いじ…?」

目の前の顔は確かに見覚えのある…前田慶次であった。


有り得ない。
わけが分からない。

混乱極まりない状態の政宗に、慶次が話しかける。

「どうした?わけわかんない、って顔してるけど」
「え…と」
「もしかして、覚えてないとか?」
「…」

まさか、という表情の慶次を前にしゃくなことではあるが、政宗は無言のままうなずく。

「へえ…そっかあ」
「…なんだよ?」
「覚えてないならないで、いいんだけど…」

こちらを眺めている視線は不快だが、この状況では、何も言えない。

「ここは…」
「ん?俺の部屋。ま、宿だけど」
「…なんで?」
「お前が来たいって言ってたから、連れて来た」
「そうなのか?」

しれっとしながら言う慶次と対照的に、みるみる顔が青くなる政宗。

「念のため聞くけど」
「なーに?」
「まさかとは思いますが…この状況で聞くだけヤボかもしれないんですけど、あの、俺とお前って…」

おそるおそる聞いてみると
「やだなあ〜決まってんじゃん!あれ…覚えてないの?」

実にあっけらかんとした返事。

「政宗、かわいかったよ…」
「っ!!!」

怒りとも驚きともつかない顔と声をした政宗。その様子を楽しむように慶次は眺めている。

しかし、まさかの事態である。
酔って記憶がなかったにしても、そんなことすら覚えていないものだろうか。慶次の言うことが本当ならなぜ全く思い出せないのか。

「まあ、覚えていようがいまいが、どっちでもいいんだけど…」
「俺の着物!どこだっ!」
「あっち、って、話聞いてない?」

言うが早いか、手当たり次第にそそくさと身支度をする。

「あれ、着替えちゃうの?」
「見んなよ!見たら殺す」
「はいはい」

身支度が終わると、ドタバタと戸のほうに向かう足音。

「色気ないなあ。もっとゆっくりしてけばいいのに」
「おい慶次!てめえ、このこと誰にも言うなよ!絶対だからな!!言ったら殺す」

顔を真っ赤にしながらそう叫んで、政宗は部屋を飛び出していった。

「…照れやさんだねぇ」

慶次は政宗の後ろ姿を見送りながら、そうつぶやいた。



一人になってみると、思ったより冷静になれるものである。政宗は昨日の夜のことを思い出していた。

確か…昨日は、一人でいたところを…うん、やつと、慶次と偶然出くわした。有無を言わさず飲むことになって…でも、その後がどうにもわからない。

もやもやと考え込んでいるうちに、日もすっかり高くなっていたようである。
ふと空腹感を覚えた政宗は、ひとまず茶でもすするかと通りかかった茶屋に寄ることにした。

腰をかけると、まもなく熱い茶が運ばてきた。ずずずとすすっていると少しは気分が落ち着いたように思えた。

「おー、こっちにも茶!」
「はーい、ただいまー」

人の頭のうえで盛大に叫ぶアホがいやがる。

どんな面か拝んでやろうと、上を睨めつける。と、そこにいたのは先刻まで一緒にいた慶次であった。

「なんか思い出した?」
「うるせえ、気が散る、黙ってろ」

慶次の顔を見たとたんに焦り、考えが散漫してきた。

「多分、何にも思い出せないと思うけど」
「…どういうことだ?」

政宗はさらにキツい視線で慶次を睨みつける。そう怖い顔しなさんな、となだめると慶次は政宗の隣にどかっと腰掛ける。

「察しが悪いね。つまり、思い出すことはないってこと」
「…て、」
「そ。なーんにもなかったってこと!残念だけどね。あんた昨日酔いつぶれて寝ちまったからさ」

なんだって?

「てめえ!カマかけやがったな!!」
「あんたが勝手に勘違いしたんじゃんか」

あの状況では勘違いしても仕方ないんじゃないだろうか、と思う。
とはいえ…

「じゃあ!なんで裸だったんだ?」
「自分で脱いでたじゃん、暑い暑いって」
「うそ…」

政宗は顔が青くなったり赤くなったりを繰り返している。

「でも、何にもなかったよ。あんたの身体にだって、痕ついてないでしょ」

言われてみればそうである。朝に鏡を見たときも、首筋あたりに残されるあの痕はなかったし、他の場所にも見当たらない。

「まあ、寝込みをやる趣味とかないし。相手が俺で良かったよね」
「よくない!」

精一杯の反論をかましてみたが、今回は慶次の一人勝ちである。

「今度はシラフのときに相手してほしいね、お嬢さん」
「次があるかよ!バカ!」

二人分の代金を置くと、ひらひら手を振りながら慶次は去っていった。







「暑い、脱ぐ…」
「じゃあ俺も」

やけに熱気の舞い上がる中に、男と女はいた。

「くひゃひゃ…やめろよ、くすぐってえ」
「そうなの?」

慶次の舌が政宗の鎖骨、華奢な線をなぞる。覆いかぶさる身体に手を回しながら、政宗が奇声をあげていた。

「なぁんだよ…アンタ…いつもそんなことしねえのに」
「いつも?」
「たまにはいいけどなぁ…」

酔いが回った身体は瞳を潤ませ、白い肌を赤く染めている。近くで見ていたら、歯止めがきかなくなりそうだ。
政宗はそんな慶次の心の内などしるよしもない。へらへらと、誘うように言葉を続ける。

「どうした?しねえの?」
「ねえ、もっと…俺のことだけ考えてよ…呼んでよ、名前…」
「おかしなこと言う…アンタ、今日は…別人みてぇ、だな…」

え……

「ちょ!誰と間違ってんの!?違うけど、俺だって!慶次だって!」

まさかとはうすうす思っていたが、やっぱりそうだった。政宗は自分を他のやつだと思ってる。慶次は声を大にして主張してみたが、政宗からはぱたりと言葉が途絶えた。

「政宗っ!政宗?……あら」

ゆすってもはたいても起きる気配が無い。だが、起こしたところでなんとする?
酔っ払って、完全に意識が無くて、自分といい人を間違えてる。
このまま続けたら、自分しか知らない政宗が見れるに違いない。でも、寝てる相手を…。
無防備な政宗を前に、気が萎えたなんてことはまったくないが、このまま自分のものにしてしまっても構わないのだが、どうしても踏み切れない。

「〜〜〜っ!!!」

葛藤は理性が勝った。
慶次は起き上がり、政宗の上から退いた。政宗に肌掛けをかけてやると、背中を向けてとなりに横になった。
政宗のあられもない姿に身体は反応したまま。気持ちとは裏腹におさまる気配もない。

「どうしてくれんだよ、これ…」

肌掛けを頭からかぶり、とりあえずのふて寝となった…

なんてことがあったのは、内緒にしとこうかな。

夜のことを思い出しながら、慶次は街の雑踏にまぎれていった。




―終―
20080920


※対慶次では生娘じゃないよな。
筆頭はザルだけど、まさむねちゃんはすげー飲んだら人並みに酔うといいな、とか。
お付き合いありがとうございます!
かげつ



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