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なかよしこよし
●つむぐ、はぐくむ、はじける ♀





日が落ちるのもだいぶ早くなったな。
毎晩の月見酒が楽しみな季節になったけど、雨も多くなってきた。
恵みの雨とは言うけども、収穫の前に雨ってのはあまりいただけねえな。
今年は、大きな日照りや水害は起きないでくれたから、たくさんの実りが期待できるだろう。
この季節になると、大いなる自然の力ってやつを感じずにはいられない。その力が生き物に実りを与え、命を与える。その命をもらって、人間は生かされているんだ。
昔っから小十郎に言い聞かされてきたことが、最近になってやっと理解できるようになってきたんだ。
おれもやっと大人になったってことか。

おまえも近いうちにまた来るといい。って、呼ばれなくても来るんだろうけど。
実りの秋でもてなしてやるぜ。





「すげえ!金色の海」
「おまえんとこでもこうなるだろ」
「ん、まあ、そうだけど。きれいなもんだな」
「そうだな」

小高い丘の上から田畑を見下ろすと、目の前にあった光景に二人は見入っていた。
風が吹くたびにざざざと波打つ稲穂の海に、夕日のだいだい色が反射してまぶしく光る。

「いいねえ、のどかで」

遠乗りに出ていた二人は、そこで馬を降り、少し休むことにした。

「もう暗くなるから、ちょっとだけだぜ」

地面に腰を下ろす。
草のひんやりした感触が疲れた足腰に心地よい。
自分たち以外だれもいない場所。
あたりを見渡して思う。
そこにあるすべての動植物は、誰に知られることもなく命の限りをつくしている。

「いのちってのは、なんなんだろうな」
「どうした?いきなり」
「秋になるとそういうことを考えたくなるんだよ」
「へえ」

神妙な顔をする政宗の隣で、元親も知らずそんな顔になった。

「この前の文にもそんなこと書いてあったな。いのちの話」
「ああ…たまに思うんだ。聞いてくれるか?」
「おう」

少し顔をうつ向かせて、元親は話を聞く姿勢をとる。

「…ここにある草木も、虫の一匹だって、誰かに認めてほしくて生きているわけじゃない。ただひたすら、与えられた生をふりしぼっているだけだ」
「そうだな」
「たまに、空しくなるんだ。人間どうしが戦うこと、その意味が。目の前にぶら下がった見せかけのものにつられて…地位、権力、そんなものに果たしてどれだけの価値があるのか、ってな」
「こんなご時世だぜ」
「こんなご時世だからだろ」
「野心の塊みたいな独眼竜からそんな言葉が出てくるとは、ちょっと意外だな」
「野心…ね。だから、ときどき空しくなるのかね」

膝を抱えて背中を丸める政宗を、元親が後ろから抱きこむ。

「なんのしがらみもなく、人が人として、生きるために生きられればいいって、たまに思うんだ」
「いつか、そんな時代が来るといいな」

政宗がクックッと喉を鳴らして笑う。

「そうだろ!そういう世にしたいから、おれはこうして…」
「いのちのことを考えてやれるのは、あんたが女だからだ。あんたはもっとやんなきゃならねえことがあると、おれは思う」
「女扱いするんじゃ…」

元親の指が政宗の顔の輪郭をなぞり、政宗の顔を横に向かせると、顎で止まる。

「おれがやらなきゃいけないって?」
「女にしかできねえだろ?いのちを生むのは」
「ていのいいこといいやがる」
「でも、本当のことだろう?」

頬や瞳にちゅうちゅうと唇を落としながら、元親は低く甘い声で囁く。

「男ってのはそういう生き物だ。おれにはあんたを大事にするっていう義務があるしな」
「…だからてめえは単細胞なんだよ。国っつー子供を残すって選択もある。おれにできなくとも、いのちは民が育んでくれるさ」
「…食えねえやつだな」

自分に絡まっていた元親の手を振りほどき、政宗はすっくと立ち上がる。

「もう日が落ちるぜ。戻るぞ」
「おう」
「すっかり腰が冷えちまったな」

のそのそと立ち上がる元親をよそに、政宗はさっさと馬にまたがり、馬上から元親に向かう。

「あのな、元親」
「なんだ?」
「おれ、その…」
「?」
「あんたとは…もっとふつうの、男と女の仲になれれば良かったけど…」
「!?」
「あんたがどう思ってるかは知らねーけど、おれは、おれにはあんたがいて良かったと思う」

最後まで言うと同時に、ものすごい勢いで馬を走らせ、政宗は行ってしまった。

「…っ、お、おい!!」

呼んだとて、すでに声の届く距離ではない。

「政宗ッ!待てって!!今のって!!!」

元親は馬に飛び乗り、大急ぎで政宗を追っかける。



何言おうとしてんだ?
あんなこと言って、言いっぱなしで
おれのいいように受け止めちまうじゃねーか。
勘違いしちまうじゃねーか。
こうなったら、なにがなんでも問いただすしかねえ…一晩かかっても…



城に向かって駆ける馬を繰りながら、元親は強く決意した。
いのちをつむぐ、秋の夜は長い長い。



―終―
20091006

※秋は命が閉じる季節ですけど、それがいのちを紡ぐということですね!二人がこんなことを話しているといいかもね、的な妄想でした。
変にシリアス、ちょっと長めの話でしたが、おつきあいありがとうございました!

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