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なかよしこよし
●月夜 (チカダテ)
政宗は元親の船にいた。

元親の気まぐれに二つ返事で、まわりのいうことも聞かず、単身船に飛び乗ってきた。
元親と出会ってから、政宗は少なからず海に憧れを抱くようになった。そして海が好きだという元親のことも、もっと知りたいと思った。
船には以前も何度か乗せてもらったが、夜の航海は初めてだった。
静まり返った海の上、政宗はひとり甲板にいた。
空には満月から少しやせた月がのぼり、濃紺の空にいびつな穴を開けたように見える。
海の上で見る月は好きだ。
ひとつだけそこに在る月は、ぽっかりと空いた眼窩のようにも、そこにだけ光を蓄える隻眼のようにも思え、妙な親近感を覚えていた。

「よお、色男。ひとりで月見かい?」
「…ああ、アンタか」

声のするほうを振り向くと、そこには元親がいた。

「竜宮城が恋しさに海に帰ったかと思ったぜ」

元親はかちゃかちゃと盃を取り出すと、政宗に渡す。どうやら酌の相手に政宗を探していたらしい。

「用意がいいな」
「あんたと飲もうと思ってたんだぜ。部屋に行ったらいねえからな」
「…そうかい」

政宗は目の前の男に、いつもとはいささか違うものを感じていた。
甲板の上、月だけが見下ろすその中で、二人は酒を酌み交わす。

「海の上か…」
「たまにはいいもんだろう」

ちびちびとすすりながら、柱にもたれかかり、政宗は月を眺める。
波の揺れと月の淡い光。いつもと違う雰囲気は酒の回りを早めているようだ。
ふと、視線を感じた。
政宗が視線のほうを向くと、元親がこちらを見ている。

「なんだ?」
「……あ、いや」

目が合った瞬間に元親はにんまりとした。

「どうかしたか」
「なんでもねえ…」

どうにもはっきりしない元親の態度に、政宗は語気を強める。

「顔になんかついてるか?」
「いや」
「言いてえことがあんなら、はっきり言え」
「別に」
「なんだそりゃ」

のらくらした態度をとる元親に呆れた政宗は、ひとまず言葉を止め、また月を眺めた。

月には不思議な力があるようで、眺めていると思考が冴えてくるような気がする。そこで元親が何を考えているのか考えてみたが、しかしさっぱりわからなかった。

元親を見ると、こちらに背を向けて横になっている。

「もとちか」
「うわっ!!!っ…は、ま、政宗…っ」

思いのほか動揺している元親につられて政宗も驚いた。

「What!?」
「わりい、ちょっと、考えごとをな」

つかみどころのない元親の思考がもどかしい。

「てめえがそんなんじゃ、せっかくの酒が不味いぜ」
「…」
「聞いてんのか?」
「…なあ」

重そうに口を開くと、元親はゆっくり起き上がる。

「たまにはよお、なんにも話さねえっていうのも、よくねえか」
「なんだそりゃ」
「こう、なんつうかさあ、その、つれそった夫婦みてえな」
「めおと?」
「こうやってよ」

言いながら、政宗の膝にすとんと頭を落とすと、下から甘えた瞳が見上げてくる。

「月がよく見える」
「そうかい」
「ここから見る月は、あんたみたいだな。あんたみたいに、周りを照らす」
「それで?」
「おれを導くんだ、あんたのところに」
「しゃべらねえんじゃねえのか」
「おっと。そうだったな…」

そのまま、月を眺めながら、二人は黙っていた。
月が自分のようだ、と元親が言った。意外なことだったのだが、そう言われたことが、なんだか素直にうれしいと思えた。

しばらくすると、元親はむくりと起き上がった。

「少し風が冷えてきたな」
「そうだな。戻るか?」
「おう」

広げたものを片付けると、政宗は盃と酒を片手にして立ち上がる。

「よし!中で飲み直そうぜえ、政宗」

政宗の肩を抱き、元親が擦り寄る。

「もう休みてえ」
「そういうなよ。あっためてやっからさあ」
「No thanks!」

邪険にする政宗と、しつこい元親。
いつものように二人がぎゃあぎゃあと騒ぎながら、いつものように夜が更けていく。
いつものような月の夜だけど、今日は少しだけ、いつもと違う時間をくれたような気がする。
そう思いながら、政宗は月空を後にした。





―終
20090531

※月いこーる政宗、な発想がシンクロしたことを書いてみた、ような。元親がいつも以上にあほ\(^o^)/
お付き合いありがとうございます。
かげつまいこ

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