本日開店5

それは雲雀恭弥というツナの過去を深く知っている(と自分で言っていた。それによりリボーン達が喧嘩をふっかけツナが怒りスカルはとばっちりを喰らった)らしい男が、
当たり前の顔をして毎日来るようになったのに慣れた頃だった。




・・・・・とスカルは記憶している。





































「沢田さん!お帰りになられてますか!?」
「・・・・・あぁ?」

まぐまぐとまかないを食べていた一同は、感極まった顔をして店内に飛び込んできた見知らぬ相手に胡乱気な眼を向けた。
期待していた人物がいないのに、見たくなんてなかった見覚えのあり過ぎる顔に気付いた青年はぎょっとする。
「な!?なんでテメーがいんだ雲雀!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・確か老舗、の」
「半月かそこらで人様の顔忘れてんじゃねー!!」
「なに騒いでんの〜?お客様がいらし、・・・・あれ?」
長く沈黙してからああと納得したようにした雲雀に、青年は青筋を浮かべるが、後ろから響いた懐かしい声にピタリと口を閉じる。
勢いよく振り返った青年は、扉に手をかけたまま止まっている人物を視界に入れるなり、別人のように顔を輝かせた。

「沢田さんっ!」
「もしかして、獄寺君!?
うわぁ、凄い大人っぽくなってない?」
「そ、そんなことは!でも嬉しいです有難うございます!
それにしても、嗚呼お会いしたかったです沢田さんっ・・・!!」
「うわ、獄寺君重いって、」





感極まったように抱きついた獄寺に、ツナが嬉しそうに笑い返したのが彼等の限界だった。


































【 本日開店5 】

































「変だなーとは思ってたんだ。
メール送ったの、だいぶ前だったし。
てっきり忙しいのかと思ってたけど、まさか日付間違えてるなんて思ってなかったんだ。
ゴメンね獄寺君」
「いいえ!ちゃんと確かめずに突然お邪魔した俺が悪いんです!」

今日の賄いを良かったら食べてと置いてから頭を下げたツナに、青年―獄寺隼人は慌てて首を振る。

その背中には来た時にはなかった足跡がくっきりと残っている。
先ほど無数の足に蹴られた勲章だった。
蹴られただけで済んだのはツナが直ぐに止めに入ったからだ。

3日に帰ると送ったつもりだったが実際は23日と送っていたツナにお気になさらずと獄寺は笑いかけ、それにと付け足す。
「そのっ、こうしてまたお会いできただけでも俺は、」
「そーだなよかったなじゃー感動の再会は終わっただろとっとと離れて海にでも帰れこのタコ頭」
「んな!?」

感動の涙を滲ませ手を握ろうとしていた獄寺の手を打ち払い、ツナをぐっと自分の方に引き寄せた青年に獄寺はキッと眦を吊り上げる。
先ほど獄寺を真っ先に蹴り飛ばし、ツナに怒られたばかりのリボーンだった。

「さっきから邪魔しやがって誰だテメーは!?
何当たり前な顔して沢田さんの横にいやがんだ羨ましい!!」
「フン、男の嫉妬は見苦しい上に醜いゾ」
「ちょっとお前なぁ、俺は今獄寺君と話し、てぇ!?」
また会話を邪魔する気かと言い切る前に、ツナの身体が後ろに傾ぐ。
「ワオ本当に醜いね、心の声が駄々漏れとか。
それに君もいつまでも僕の綱吉を抱いてるなんて許さないよ」
「雲雀!てめッ、沢田さんを離しやがれ!」
「俺からツナを奪い盗るとはいい度胸じゃねーか雲雀っ・・・!」
大体お前いつまで此処に居座る気だと言うリボーンを無視し、ひょいとツナを腕に抱きこんだ雲雀に今度は二人揃って険悪なオーラを醸し出す。

「僕は何時でも好きな場所にいるんだよ」
「この唯我独尊が!」
「君に言われたら終わりだよね」
「終わりなのはテメーの命だ!」
「弱い犬程よく吼えるって言葉を知ってる?」
「この野郎・・・っ!果たす!」
「撃ち殺す!」
「できるならやってみせてよ」

あわや戦闘必至な雰囲気に、呆れたようにツナが口を挟む。

「・・・・二人で遊ばないで下さいよ、雲雀さん」
「反応が面白くてつい、ね」
「ついじゃなくて業と、でしょう?
獄寺君も落ち着こうね。君が怪我したら嫌だよ、俺」
「で、でもですね!」
「もし、手を傷つけたら、どうするの?」
「うっ・・・」

哀しそうな眼を向けられ黙る獄寺に有難うと言った後、思い出したようにリボーンに眼を向ける。

「あぁ、それと店に傷一つでも付けたらお前の給料から10倍にして天引きするからなリボーン」
「え!?」
「ちょっと待て何で俺だけそんなキツく言われるんだ!?納得いかねぇぞ」


いきなり人を蹴る奴には当然の措置と、些か冷たくあしらっているツナが口にした名に、獄寺は自分の耳を疑う。
(今、確かに・・・ッ)


獄寺が黙り込んだことには気付かず、詰まりながらもしつこく文句を言うリボーンにツナは嘆息する。
「それにお前の顔に痣でも作らしたら俺が常連のお客様に怒られちゃうよ。
店が壊れるのも、お前が殴られるとこ見るのもイヤだし」

ほーらいい事一つもないだろ?と苦笑され、リボーンは黙る。

「だから俺の為だと思ってさ、頼むよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・仕方ねーな」
「うん有難うな、リボーン」
偉いぞ〜と頭を撫でるのを子供扱いするなとギャーギャーいう二人に、今度こそハッキリと聞き捨てならない名前を聞いた獄寺が声を上げる。

「ちょ、ちょっと待って下さい沢田さん!!リボーンって、あの!?」
「へ?」
「俺の聞き間違いでなければ、今この人のことをリボーンと呼びませんでしたか!?」
「・・・・・・・??」
「ツナ、リボーン先輩は一応この業界では有名だとこの間話しただろ?」
それでこの餓鬼も知ってるんだろうというスカルにツナはそういえばと納得する。

「やっぱり知ってるんだ?獄寺君」
「ええ!?さ、沢田さん、まさかご存知なかったんですか!?」
「あーうん。つい最近知ったんだー」
本当に有名人なんだねリボーンと、今まで全くリボーンのことを知らなかったツナは興味薄気に珈琲の入ったカップを傾ける。
さりげなくリボーンが肩を落としていることには気付いていないツナに、興奮したように獄寺が言い募る。

「世間一般には写真も何も公開されていないので容姿は知らなかったですけど、実績と伝説だけは沢山知ってます!
俺の沢田さんの次に尊敬する人ですよ!」
「ほれ見ろ、こんな田舎の餓鬼でも知ってんじゃねーか。
俺を知らなかったツナの方がおかしいんだよ」
「先輩が言うのは間違ってますよ」
人のことなど全く興味がないリボーンに言われたら終わりだとスカルが半眼で突っ込む。
流石に悪いと思っているのかツナはぽりぽりと頭を掻く。

「でもなぁ、聞いたことないのは聞いたことな」







「“アルコバレーノ”」







その一言により、一寸先まであった賑やかだが明るい雰囲気が霧散した。


代わりに鈍重な空気が室内を満たし、嘗て家光に呼び出された青年達がゆっくりと振り返る。
雲雀に向けられたその眼は、総じて相手の胸を抉るかと思う程鋭かった。



それをものともせずに雲雀は続ける。
いつもよりも優しく、囁くように。幼子に寝物語を聞かせるが如く。
「それなら、聞いたことがあるだろう?綱吉」
「え・・・・」

聞きなれない単語に戸惑うかと思われたツナは、暫し茫然とした後、
「アルコバレーノ、・・・って、
・・・・・・・・・・・そっ・・・か、リボーン達が、」
「・・・・ツナ?」


何かを悟ったように目線を下げたツナの、その静か過ぎる、諦めたような声音に。
周りの者は不安を覚えたのか眉を顰める。

しかし、誰かが口を開く前にツナは顔を上げ、にっこりと微笑んだ。

「うんじゃ、皆開店の準備しようか」
「は!?」

何事もなかったように手を叩きはいはい休憩終了〜と、卓上を片付け始める。

「ちょ、」
「ま、待てコラ!ツナ、お前一体、」
「だってもう16時前だよ?
セッティング何もやってないんだから。
仕込みはラルが担当だったから問題ないだろうけど」

ずっと黙っていたラルに視線を送れば、一瞬眼を細めるが直ぐにフンと口の端を上げる。

「当然だな」
「流石ラル、仕事が速いね」
「軟弱なお前に言われるまでもない」
ツナに褒められ、満更でもないラルに、コロネロやリボ-ン達はビシリと青筋を浮かべる。

「ツナ!俺だってもう明日の仕込み終わらしてるぜコラ!」
「片付けは俺がやるから、ツナは、」
「しゃしゃるなパシリが、俺がやろうと思ってたことを」
「いっつもあんた下げなんてやらないじゃないか!?」
「沢田さん、俺がやりますからどうぞまだ座ってて下さ、」
「「引っ込んでろこの新人!」」
「誰が新人だ!?」

「皆仲良くやろうねー?」

「「「「勿論!!」」」」


口とは違い息はぴったりな彼等にうんと頷き、ツナも食器を持ち上げた。



































いつもの調子で言い争いながらもあっという間に綺麗になったテラスを見回し、ツナがクスリと笑う。
やはり皆でやる仕事は、とても楽しい。






「先延ばしかい?」
らしくないねと少しの会話で先程の妙な空気を一変させたかつての弟子に、まだ席に着いていた雲雀が声をかける。
拭き終わったテーブルを確認するようにそれに触れたツナは、少し笑った。

「・・・・・・・・俺は、臆病者ですから」







表のメニューを書き換えてくるので、そろそろ失礼しますと礼をして去ったツナに雲雀は眼を細めたが、
結局何も言わずに一人優雅にカップを口元に運ぶ。










そうしたくなるのも、仕方が無いとわかっていたから。
































(ホンット、俺って臆病者)


「オマケに勝手だし・・・」
初めは渋々とやっていた筈なのに、今はこの生活が惜しいと思っているのだから。


(でもなー、だって楽しいんだもんなー)
言い訳したって、先程聞いた事実であろう言葉が耳から離れない。

「・・・・・・・・あぁー、もう。国際大会なんかやっぱ出なきゃよかった」
そうじゃなきゃアイツに眼を付けられることもなかったのに。

「でもそしたら、スパナにも会えてなかったしうーん」
それは困るななどと呟きながらも、頭の中で夜のコースを組み立て直す。
この分だとコロネロにも確認を取る必要がありそうだった。
話に乗ってくれたラルにも礼を言うつもりだったから丁度良いだろう。





「うわ、暗っ」
完璧に拭き上げられたシルバーの並んだテーブルの横を通り抜け、窓の明るさを見て立ち止まる。
果たしてこれで字が見えるだろうか。

それ位、外は暗くなり始めていた。


冬が近いのだろう。
夜が近づくスピードが日に日に早まっている。


「うーっ、寒っ!やっぱ表は後回し!」
そう考えると急に寒くなってきたツナは腕をさすり、先にキッチンに行こうと予定とは逆の方向に足を向けた。
























































「やっと、見つけたぜぇ・・・・・・ッ」











酷く憔悴した男が着いたのは、その時だった。




























Continua a prossima volta...



あきゅろす。
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