開店前4
欲しいものは?と聞かれ
ないと答えるのが普通だった
それは今も変わっていない
「おめでとうスカル君!はいっ」
満面の笑顔で渡された綺麗にラッピングされたものに首を傾げそうになったスカルは、直ぐに気付いた後笑顔で礼を言った。
「有難うございますお客様」
最近あまりに色々なことが有り過ぎてすっかり忘れていた。
今日が自分の誕生日だったことなど。
【 開店前4 】
常連ではあるが、言ってしまえばただのお客の彼女達が一体どうやって知ったのかなど全くわからないが、折角の好意を無駄にも出来ないので、差し出されるままに誕生日プレゼントを受け取ったのは自分だ。
しかし、
「うわー・・・凄い量だねえ、これまた」
ツナが素直に感嘆の声をあげる。
・・・見上げる程の量はあまり予想していなかった。
此処はかつて自分が指揮を出していたところではないから。
「それにほら見てよ、海外、イタリアからのもあるよ?
スカルってば人気ものだな〜」
「いや、これは少し違うんだが・・・」
「?」
「いや、なんでもない」
しかもちゃっかりかつての部下からのものも郵送されて届いているのには苦笑した。
全く忠実な奴等だ。
嬉しくもあるが少し申し訳ない気持ちにもなる。
今頃どうしているのだろうか。
一先ず店内から二階に移そうと言ってきたツナに答えることにより、考えることはやめた。
粗方プレゼントの山を運び終わった後、休憩中。
あの大量なものをどうしようかとぼんやりと考えていたスカルの隣に座っていたツナは、申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、俺も何かあげたかったんだけどスカルの好みとかわからなかったからさ、」
一瞬何のことかと思ったが、直ぐにツナが自分の誕生日祝いのことを言っているのだと気づいた。
この青年は、きっと知らないんだろう。
気にしてくれたというだけで、こんなに自分の胸が温かくなっているということを。
自然笑みが浮ぶ。
「いいんだ、気にしないでくれ。それに、」
「?」
手に持っていたカップを軽くあげる。
「俺にはこれで十分だ」
不思議そうに眼を瞬いたツナは、スカルが言っているのが自分の煎れたアイスカプチーノだとわかり、欲がないなあと苦笑した。
それにスカルは曖昧に笑う。
欲がないわけじゃない。
無頓着な自分の中にだってドロドロとした醜いようなものはある。
欲しいものはただ一つだけだから、容易には口に出来ないだけで。
「だからね、結局ケーキにしちゃったんだけど苦手じゃない?」
「え?」
思わぬ言葉に間抜けな顔になる。
サングラスをかけていたってわかっただろう。
「プレゼントは結局迷って買えなかった分、力は入れたつもりだけど。
ドルチェとか久しぶりで自信はそんなないんだけどさ」
飾りもシンプルになっちゃったけどまぁ許してよとへらりと笑ったツナが取り出したものに、スカルは参ったとばかりに笑った。
それは以前自分が一回だけ食べたいと口走った故郷のもので。
「今までで一番嬉しい贈り物だ、有難うツナ」
これだから欲しいものなんてないのだ。
この青年以外は。
2009.4.20載録
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