開店前3

コロネロは、その時生まれて初めて殺されるかと思った。























(し、心臓が止まるかと思ったぜコラ!!)
状況に合点がいった途端急に全速力で走り始めた煩いくらいの心臓にこの青年が起きないか冷や冷やする。

それはそうだろう。
何やら暑いと思って目を開けたら綺麗な顔が目の前にあったのだから。

飛び起きなかった自分を一重に褒めたいと思う。





今自分の眼の前で気持ち良さそうに眼を閉じているのは沢田綱吉。
愛称はツナ。
現在コロネロが働いている此処『Vongola Restaurant』のオーナーの息子で現在代わりを勤めている青年である。

つい最近まで海外で働いていたらしいが、家光に呼ばれ、十年振りに故郷へ帰ってきたのだという。
其れぐらいしか彼のことは知らない。
リボーンのように根堀葉堀聞く気にもならない。
話さないということは、言わなくてもいいようなこと。若しくは聞かれたくないことだから。




この青年は、一見のほほんとしていて愛らしいが、
仕事に関しては結構厳しく料理人としてのプライドも中々高いようだ。

ここ2、3日でそれはわかった。

しかしコロネロはツナが一番厳しいのは自分に対してだということを知っている。
店のことはホールからキッチンまでこなすようだが、そのプロ意識には正直舌を巻いた。
そして自分の現状に甘んじることなく努力も怠っていない。




だからコロネロはこの平凡そうにみえて非凡な青年に好意をもった。
勿論、同じ道を生きる仲間としてだ。

それは他の腐れ縁達も同じようで、あのラルでさえ笑顔になっているのを見た時は、怖気が立つと同時に驚愕したものだ。(その後ラルには殴られた)


























(こいつ、部屋間違えたな・・・?)
コロネロは浮くような感覚の頭で考えた。

ツナの部屋は隣室だ。

そういえばさっき、隣室のドアが開いた音がしたような気はしていたが。
きっと手洗いか水を飲みに降りていったのだろうと大して気にしていなかった。


まあ、この部屋と隣室は似たような造りになっているので間違えたって仕方がない。
この熟睡の仕方からして相当寝ぼけていたのだろうし。

隣ではリボーンが寝ているし、足元に追いやられてはいるがスカルもいる。
流石に4人はこの部屋では手狭だが、暑苦しいのを我慢すればツナが増えたって問題はない筈だ。

なのに、何故自分はこんなに動揺、否混乱しているのか。
相手はれっきとした男だというのに。


(・・・だ、誰だって起きて目の前に予想だにしていなかった顔があれば驚く筈だ、そうだコラ)
別に誰も聞いていないのに言い訳をする。
当然だ。
今この部屋にいる4人のうち自分以外は眠っているのだから。



元々は3人部屋の筈の室内で、新たに増えた一人があどけない顔をして直ぐ傍で寝息をたてていることに、コロネロは身動きが取れないまま石化していた。






























【 開店前3 】


































一瞥しただけでもう使い物にならないとわかるパスタにコロネロは眉を寄せ皿を厨房に引き戻した。
「何やってんだアイツ・・・?」





食器が割れたというよりも家の壁が割れたという方が納得できるような音が響いて、煩いわけではないが好ましい程度に賑やかだった店内は静まり返ったのは10分程前のことだ。
またいつものようにリボーンが男客に癇癪でも起こされて殴りかかられたのを避けたりスカルを身代わりにして遊んでいるのかとも思ったが、何時まで経っても料理を取りに来ないのはおかしかった。

性格も口も悪い男だが、一度始めた仕事に関してだけはプライドを持ってやっている奴だ。
自分の失敗で料理を冷ましてキッチンに再度頼むなんて、アイツからしたら屈辱以外の何でもないだろう。

不本意なことに誰よりもあの腐れ縁のことがわかっているコロネロいつもは顔を出したりしないホールへ足を向けた。





通常、何らかの理由でキッチンの者が表・ホールに出る場合はお客に不快な思いをさせない為綺麗なコックコートに着替えなければならない。

しかしそれはコロネロはそれをしたことがなかった。
本来ならば何色かに染まっているべき作業着は、怒涛のランチが終わりを告げる直前の時刻だというのに水に濡れた痕跡は愚か、ソースの染み一つなく純白のまま輝いていた。












なにやら誰かが怒鳴っているらしいホールに向かう。
随分と感情的になっているようだ。
いつもならば此処まで客を興奮させる馬鹿をアイツがやるわけがないのに。


何故かリボーンとスカルしかいないホールに眉をよせ、そしてリボーンの長身の影に隠れていた少年を見つけ、一体どんな偏屈な客なのか見てやろうとしたコロネロの足は、止まった。






少年は燃えるように琥珀を煌めかせ、リボーンただ一人を睨んでいた。





あまりの意思の強い、眼が眩むような視線。

一瞬眩暈がした。




何故直に見上げられているリボーンが平気なのか理解ができない程に。





そう思い、次に不快な想いが競りあがる。
誰に対してかのものかと思えば、何故かリボーンだった。




確かに日頃からコロネロはリボーンを忌々しく思っていた。
それは確かだが、これはまた別のものだ。


自分に首を傾げながらも、隣のスカルにどうしたのかを聞いたコロネロは取り敢えず成り行きを見守ることにした。













この時は本当にコロネロは気付いていなかった。
視線が常に青年に固定されていることを。


























































眼を開いた時よりはいくらかマシになった心臓にほっと息を吐く。
その息によりツナの前髪が少しばかりふわりと浮く。
するとツナは何やらムニャムニャ言いながら更にコロネロに体を寄せ満足そうに笑んだ。


「・・・・・ッ!!」


・・・・・・・・飽くまでもマシ、になったというだけだったコロネロの心臓は先程よりも早鐘のようになった。







(・・・クソッ!)
わかりたくなかったのに、

















甘いような芳しいようなツナの吐息を感じ、コロネロは自棄になった。



(こうなったらもう開き直ってやるぜコラ!!)




こんな状況などもうないだろうとコロネロは華奢な体を業と引き寄せ抱きしめた。

眼を閉じてしまえば夢のことだったと笑って忘れられるように。


































決してこの熱帯夜の所為だけではない、忘れることなど出来ない位に火照った体に気付かないフリをして。












あきゅろす。
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